ヴィアマーレ

水中の危険生物とファーストエイド(「槍」と「咬」編)

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水中にはさまざま危険生物がいます。

今回はその主な生物の特徴と万が一被害にあった時の対処法を体系的に整理してみたいと思います。

 

海洋有害生物 救急処置 正誤表
海洋有害生物 救急処置 正誤表
CPR実施手順
危険生物へのファーストエイド詳細

 

こちらが海洋危険生物の応急処置にまつわる正誤表とファーストエイドの詳細になります。

プリントアウトしてパウチっこして携帯すると便利です。

「鉤」とあるのは刺胞と呼ばれる鉤状の細胞から発射される毒によるもの。

「棘」はわかりやすいですね。物理的な「棘」に有毒物質が含まれるものです。

「槍」は貝類独特なもので、吻と呼ばれる口元からまさに「槍」のように毒牙を発射し、獲物に毒を注入して捕食します。

「咬」ウミヘビは毒牙、ヒョウモンダコは唾液に毒があります。いずれも噛まれることによって受傷するパターンです。

 

これからは神経毒なので即命に関わるレベルになります!

これからご紹介する海洋生物は非常に強い神経毒を持っています。万が一刺されようものなら救急搬送でも間に合わないレベルになりますので、まずはしっかり覚えておいて被害に会わないよう心がけましょう。

 

イモガイの仲間(タガヤサンミナシとアンボイナ)

タガヤサンミナシガイ
タガヤサンミナシガイ

数えきれないほどの種類のある貝類のグループ。大きく巻き貝と二枚貝に分かれますが、毒があるのは巻き貝グループのイモガイの仲間。特に写真のタガヤサンミナシガイとアンボイナガイはコブラに匹敵する神経毒を持っています。アンボイナの写真も撮影した記憶はありますが探しきれていません。標本もあったはずですが、見つかりませんでした。後日アップさせていただきます。イモガイの仲間にはこの2種以外にもムラサキアンボイナなどにも毒があると言われており、その他のイモガイ類にも毒がある可能性は否定できません。とはいえタガヤサンミナシとアンボイナに比べればさほど毒は強くないと思われます。イモガイの仲間は別名「ミナシガイ」と呼ばれます。身が貝殻の中に引っ込んでしまうと、生きていても死貝に見えるほどなのでそう呼ばれています。お恥ずかしながらワタクシもまだ大学1年のペーペーダイバーの頃に西表島でダイビング中にタガヤサンミナシを発見し、当時はまだ「ミナシガイ」の意味を知らなかったのでてっきり死貝と思い、大切にロングジョンの首元から胸の辺りに突っ込んで持ち帰ったことがありました。しばらくしたら腐って臭い始めたので、冷や汗をかいた記憶があります。刺されてたら今この記事は書いてないでしょう(汗。)

タガヤサンミナシやアンボイナは基本夜行性です。日中は珊瑚礁の複雑な隙間や砂地に潜っていたりして、滅多に目にすることはありません。夜になると積極的に活動を始め餌になる小魚を狙い毒矢を放ちます。ナイトダイビングでは特に注意しましょう。いずれにしろこの形状の巻貝には不用意に触らないのが賢明です。

似た形状の貝に沖縄では泡盛のつまみでよく食べられるマガキガイ(沖縄方言名:ティラジャー)という貝がいます。潮干狩りでも取れる回なので、ダイバーよりもむしろ潮干狩りに慣れていない方がマガキガイと間違えて採取した際に刺されるケースが多いかもしれません。

 

タガヤサンミナシガイ、アンボイナガイ刺傷への対処法

この貝に刺されたらまずは可及的速やかに海から上がり、刺傷部位を確認し、刺傷部を小切開し可能な限り毒を絞り出しつつ、同時進行で救急搬送要請を行います。受傷部より心臓に近いところを縛って毒が回らないようにし、可能な限り短時間で医療機関に送り込むことが肝要。まさに時間との勝負になります。心肺停止に陥るような場合にはCPRを行いながら搬送します。ダイビングの現場では救急車に繋ぐまでに時間を要するケースが多いと思われるので、とにかくできうる限り短時間で救急車につなげられるルートを模索してください。また止血している時にはその部位より先の壊死を防ぐために定期的に止血を緩めて血流を流すことも忘れずに。

 

 

ウミヘビの仲間

 

 

ウミヘビと呼ばれる生物には大きく分けて魚類に属するものと、爬虫類に属するものがあります。

魚類に属するミナミホタテウミヘビやダイナンウミヘビなどには毒はないので、後述するウツボの仲間と同様、物理的な噛傷に気をつければ大した危害にはなり得ません。

気をつけるべきは爬虫類に属するコブラ科エラブウミヘビ亜科に属するウミヘビで、沖縄にはエラブウミヘビやヒロオウミヘビ、クロガシラウミヘビ、クロボシウミヘビ他、全部で9種ほどが知られています。

ただ陸から海に戻った爬虫類のウミヘビの仲間は陸棲の毒蛇とは根本的に異なり、コブラやハブが口の一番前に毒牙がありしかも顎が外れるくらいに大きく開くのに対して、ウミヘビ類はおちょぼ口でしかも毒は歯の一番奥の方に生えているので、とっ捕まえて指を口の中に突っ込まない限りはまずダイバーが被害に遭うことはありえません。過去のウミヘビによる咬傷例はほとんどが陸で起きています。沖縄ではエラブウミヘビは高級食材です。産卵で水際の洞窟などに上がってきたところを捕まえるのですが、その際に誤って噛まれたり、ビーチに打ち上がったウミヘビに悪戯して噛まれたり、網にかかったウミヘビを外そうとして噛まれたりするケースです。

ちなみにウミヘビは主に魚類を捕食する肉食性で、特に自分と同じような細長い魚が特にお好みのようで、若いウツボや水族館で人気のチンアナゴなどが標的になりやすいようです。だからやたらウミヘビを見かける時にはチンアナゴは全く穴から出てきません。さてウミヘビというとよく2匹が絡まりあってるシーンがよく観察されます。これは求愛行動で、繁殖期には特によく見られます。そして長くて動くものなら何にでも求愛対象と勘違いしてまとわりつくことがあります。ヤガラなどが迷惑を被ってるケースが多いですが、時にはダイバーの脚にも絡み付いてくることがあります。ここでウミヘビは猛毒という浅い知識しか持ち合わせていないダイバーだとそれだけでパニックに陥ることがあります。ウミヘビに限りませんが、危険生物に対しては正しい知識を学ぶようにしましょう。

 

 

ウミヘビ咬傷への対処法

万一ウミヘビに噛まれたら、可能な限り種を特定しつつ、可及的速やかに海から上がります。ウミヘビ咬傷の場合は、二個以上の小さな牙痕が平行に並んで残りますが、その傷は目立たない上、痛みも腫れもないので、軽く考えて医療機関の受診が遅れると後々重い症状に至る恐れがあるので、一刻も早く医療機関を受診することが肝要です。ただし痛くも痒くもないからといって自分で車を運転して病院に行くことは危険です。いつ何時症状が急変して運転中に意識不明に陥ることもありえます。

応急処置としての咬傷部の切開や毒の吸引はあまり効果がないらしく、欧米では患部を圧迫固定することを推奨しているようだ。毒の周りが早く呼吸障害などが起こった時には気道を確保して人工呼吸しながら病院に搬送します。

 

 

タコの仲間

 

タコの仲間で毒があるのはヒョウモンダコの仲間、僕らと同世代の方々ならジェームズ・ボンドの”007”シリーズの「オクトパシー」でご存知のヒョウモンダコのほか、沖縄で一般邸にヒョウモンダコと言われているのは実はほとんど近似種のオオマルモンダコ。ちなみに全世界では他に2種が知られています。ごめんなさい。ヒョウモンダコには座間味時代の夜の潮干狩りでしかお目にかかったことがなく、当時はスマホもGTない時代だったので映像ありません。ググるか映画”007 オクトパシー”をご覧ください。

その他サメハダテナガダコというタコも毒を持っているとされていますが詳細は不明。自分もお目にかかったことはありません。

毒のあるタコに限らず、タコやイカには脚の付け根の根元が口で、いわゆるカラストンビと言われる、鳥のオウムのようなクチバシが内蔵されていて、毒のあるなしに関わらず万が一噛まれたらそれなりの外傷を負うことになります。大型種なら指の一本ぐらいは持ってかれるかもしれませんので下手にちょっかいを出さないようにしましょう。

ヒョウモンダコの仲間はではとりあえず咬傷になりますが、その唾液にはフグ毒として有名な神経毒のテトロドトキシンが含まれていて、万一噛まれると短時間で死に至ることもある超危険なヤツです。

ヒョウモンダコの仲間は、基本地味目なタコの仲間のなかでも超ド派手な宇髄天元みたいなヤツで、体側に散財するブルーのリング模様が特徴。美しいものには棘がある!と肝に銘じましょう。

とはいえコイツらの生息地は、浅場の沖縄では「イノー」と呼ばれる礁池内が主なので、ダイバーが目にすることはほとんどないでしょう。実際1万本以上潜っている自分も通常のスクーバダイビング中にヒョウモンダコやオオマルモンダコを見たことはナイトダイビングも含めて一度もありません。座間味時代には沖縄の方言で「イジャイ」と言われるいわゆる潮干狩、特に夜の「イジャイ」では結構見掛けるもので、被害ははほとんど潮干狩りの現場だと思われます。

 

ヒョウモンダコ類の咬傷への対処法

ウミヘビの対処法とほぼ一緒。可及的速やかに海から上がり、直ちに救急搬送します。救急車に引き継ぐ前に心肺停止に陥るようならCPRを行うことは言うまでもありません。

 

その他の地味にヤバイ海洋生物たち

 

ゴマモンガラ

 

ある意味、その他のどの危険生物よりも現場では危険な魚がこいつ。

特に毒があるとかは全くないのですが、夏場の繁殖シーズンになると海底に産卵床を設けて産卵すると、あたりに寄ってくる生き物にはどんなに大型の生物にでも攻撃を仕掛けてきます。もちろんダイバーも対象です。ゴマモンガラの吻は石のように硬いので、攻撃されたあたりどころによってはタダではすみません。頭部を直撃されれば脳震盪を起こす可能性もあるし、マスクを直撃されればマスクが外れてしまうこともあります。しかも中には超しつこいヤツがいて逃げても逃げても追ってくるヤツもいたりします。一番ヤバイと思ったのは水納島の港からほど近い砂地のポイント。一瞬うっかり近付いただけなのにその後エグジットするまでしつこく追いかけてきました。

沖縄だけではなく亜熱帯から熱帯の海には普通にいますのでご注意ください。

 

ダツ

 

細長で、瞬発力のある魚で、一見まさに魚雷のようなフォルムが特徴の魚です。日中はボートの走る音に驚いて水面を逃げていくシーンをよく見かけますが、極めて強い走光性があり、夜間強力な光源に向かって突進する性質があります。強力な光量のライトを持って夜の潜り漁をするダイバーでは当たりどころが悪く目から貫通したと言う例もあり、ここではエグイのでご紹介はしませんが、医療者向けのダツによる被害の写真には筆舌に尽くし難いリアルな写真もあったりします。
以前はレジャーダイバーが使うライトはそこまで光量が大きくはなかったのでさほど心配する必要はありませんでしたが、近年、フォト派やビデオ派に向けた大光量のライトも市販されていますので、ナイトダイビングでは注意が必要になるかもしれません。

とりあえずはダツによる被害は水面限定ですので、水面近くでは自分でコントロールできないライトは点灯しない、大光量のライトは点灯しない、といった基本的なポイントさえ押さえればダツによる被害は回避できます。

 

ウミケムシの仲間

 

 

ウミケムシはゴカイの仲間です。釣り餌にもなるゴカイの仲間ですが、一部のウミケムシ類には体側に陸棲の有毒毛虫と同様の繊毛が生えていてそれに触るとチクチクした痛みと共に場合によっては患部が腫れてきます。またいったん刺されるとかなり広範囲に被害が及ぶことがあります。被害原因の分類としては「皮膚刺激群」に属します。ダイビングの現場では日中はあまり見かけることありませんが、ナイトダイビングや、釣り愛好家、場合によっては水槽で異常繁殖を起こすこともあるのでアクアリストも注意が必要でしょう。

 

ウミケムシ類の咬傷への対処法

ウミケムシの繊毛には「コンプラニン」という毒があり、刺されるとちくちくした痛みや、痒み、腫れなどの症状が出ます。まずは刺さった繊毛を除去するために、セロハンテープなどを患部に貼り付けることを繰り返し、患部に刺さっている棘を可能な限り除去します。痒いからといって刺された部分を擦ると棘が皮膚深くまで入り込んでしまい、症状が悪化します。重度の場合には皮膚科などを受診しますが、軽度であれば市販のステロイド軟膏を使えば症状は緩和します。

 

 

「ちんくい」

 

沖縄で「ちんくい」と呼ばれているのは、エビやカニなどの甲殻類の「ゾエア」と呼ばれる幼生期の一形態で、プランクトンに分類されます。とにかくコイツらが水中にいるととにかく身体中がチクチクします。個人差はあるので全然平気な人もいるのですが、自分はこの「ちんくい」には弱く、マンタやジンベイザメが捕食行動をしているようなところに潜ろうものなら確実にやられます。どこかで言及したかもしれませんが、「ちんくい」にやられて、唇が文字通り「たらこ唇」になってしまったカメラマンアシスタントも過去に見ました。

まぁただ普通は被れたように湿疹が出て痒いだけなので、キンカンとかの痒み止めやステロイド軟膏で普通はほっとけば治ります。「たらこ唇」になってしまうほどの重度なら皮膚科を受診してください。

 

 

この記事を書いた人

案納昭則

潜水歴四十年、総本数12000本を超える現役のSSI(スクーバ・スクール・インターナショナル)インストラクターでありJPS所属の職業写真家。
2003年にNHK「趣味悠々〜水中散歩を楽しもう(全7回)」講師を担当。上智大学外国語学部フランス語学科中退。
NPO法人沖縄県ダイビング安全対策協議会事務局長を歴任。

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