ヴィアマーレ

「学名」って何? 分類学の基礎を知る

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皆さんは水中の生物をどんなふうに呼んでいますか?

 

 

例えばこれは?

 

カクレクマノミ

ですよね。ではこれは?

 

モンガラカワハギ

です。そしてこれは?

 

ザトウクジラ

ですよね?

 

このように普段私たちが使っている動物や植物の名前は、いわゆる「和名」もしくは「標準和名」といいます。

和名は、あくまでも日本国内で一般的に使用されている習慣的な名称で、生物の場合、一つの種に多くの異なる名があったり、複数の種が同じ名で呼ばれたり、地方によって異なっていたりもします。江戸時代などの浮世絵で描かれた図鑑などでは全て漢字で表記されてたりもします。たとえばザトウクジラは「座頭鯨」です。さらには地球レベルで言うと同じ種が海外では言語によってそれこそ数多の言葉で表されています。先述のザトウクジラは英語では”Hampback Whale”ですしフランス語では”Baleine à bosse”、と国々によってそれこそ地球上の言語の数と同じ言い方があるわけです。まぁ、もちろん海のない国の言葉にはそもそもそんな言葉すら存在しなかったりします。

そろそろご察しの通り、極端な話、地球的なレベルで一つの生物について語り合う時、例えばザトウクジラのことを議論しようとして、それぞれの国が当のザトウクジラをそれぞれその国の言葉で千差万別な名前で呼んでいてはそもそも議論にすらならないわけです。

と言うわけで世界的に共通に通用する名称を全ての生き物に割り振る必要に迫られ、「学名」と言う概念が生まれました。

ちなみにここでご紹介したザトウクジラの学名は ”Megaptera Noveangliae” 

ラテン語はほとんどローマ字読みなので、読みは「めがぷてら・のゔぇあんぐりえ、」「ニューイングランドの大いなる翼」という意味で、命名学が進んだ時代は近代捕鯨の時代と一致してますので、当時米国最大の捕鯨基地であるナンタケットがあったニューイングランド州 ”Noveangliae” とザトウクジラの最大の特徴である体調の1/3もの大きさになる胸鰭を表す”Megaptera” を組み合わせた学名となっており、その学名の意味は「ニューイングランドの大いなる翼」です。

 

学名:Scientific Name を理解する

 

Facebookなんかでマニアックなガイドダイバーさんが「じゅげむ・じゅげむ」のような魔法の言葉を使うことがあります。

ひぽかんぷす・でにせ とか、

あえぎれす・せれなえ とか、

ぽしろぽーら・えすぴー とか。

あ、自分のブログでもちょこちょこ出てきますね。

 

ちなみに下の、ひぽかんぷす・でにせ、はピグミーシーホースの一種

 

ひぽかんぷす・でにせ

 

あえぎれす・せれなえ は、ウミウシの仲間

 

あえぎりうす・せれなえ

 

ぽしろぽーら・えすぴー 「えすぴー」は”sp.”で英語の”spiecies”の略、まだ正式な種小名がついていないものにつけられ、日本語では「何々属の一種」と訳されます。ちなみにこのサンゴは実は自分が発見した「ハナヤサイサンゴ属の一種」でおそらく新種。

このサンゴの発見のお話はまた後日・・・

 

ぽしろぽーら・えすぴー

 

ひらがなでベタに書いちゃいましたが、正確にはそれぞれ

Hippocampus denise

Aegires serenae

Pocillopora sp.

 

学名というのはラテン語で表記され、文字にするときはイタリックにするのがお約束です。

Pocillopora sp. の ”sp.”は学名ではなくある意味「記号」みたいなものですのでイタリックにはしません。

基本的な構造は「属」+「種小名」、文献に記載するときなどは、その後に「命名者」+「命名年」を併記します。

 

Hippocampus denise

を例にするとこの人は「属名(姓)」Hippocampus 家の「種小名(名)」denise さんというわけです。

図鑑や学術誌に記載する場合には「命名者」Loulie & Randall と「命名年」2003を併記し、

Hippocampus denise(Loulie & Randall, 2003) と表示されます。

お遊びで日本の戸籍的に表記すると

火歩感富巣 弟尼背 (流李と蘭戸琉により2003年命名)

ってとこでしょうか?

 

さて、「属」+「種小名」とかが出てきたので、ここで分類学の基礎を踏まえておく必要があるでしょう。

 

分類学の基礎

 

分類学というのはそもそもダーウィンの進化論の上に成り立っていると自分は思っています。学術的には全く別物とされているようですが・・・

ともあれ、諸説ありますが、生命の起源といえば太古の地球の海の中で、無機物が蓄積してある時に有機物が偶然に生成されたことに始まります。その偶然といえば、もはや想像の域を出ず、例えば隕石の落下が引き金だったとか、宇宙人がその種を撒いたとか、想像するに夢は膨らみます。いずれにしろ何の変哲もない無機物が、何らかのきっかけでごく原子的な有機物となり、さらにバクテリアへ、そして植物プランクトンと進化して、地球生命の歴史は始まったのです。

ちなみに無機物とは酸素、二酸化炭素、水、金属などの単なる化学物質です。一方、有機物といえば糖やアミノ酸、脂肪など高次元の生命の礎になる物質です。

植物は光合成によって二酸化炭素と水から糖(と酸素)を作ります。
このことを「生産者は無機物から有機物を作る」といいます。
植物は有機物を作れる「生産者」なのです。

 

生物の進化

さてこうして発生した生命は、「進化の木」を作り始めます。

原生生物から現在の豊かな種の多様性に至るまでの過程は、まさに、一つの種が、芽を出して成長し双葉になり、草木になり、樹木になり、そして数えきれないほどの花を咲かせる巨木になるが如くのストーリーです。

その進化の過程の結果である現在の生態系を体系的に整理する学問こそが「分類学」と言われる学問です。

 

分類学

要は生命というのは原子の生命からはじまり、ナチュラルセレクションの原理に基づいて、その時々の環境に順応しながら進化していった結果が現在の生態系を構成しているのです。

 

カール・リンネ

リンネは分類学の父と言われていますその功績は次の2点に集約されます。

分類学の基礎を築く

それまでに知られていた動植物の種に関する知見をまとめ、上位分類の段階をはっきりさせました。

「学名」いわゆる「二名法」を確立

リンネはスウェーデン人の博物学者ですが、ちょうどフランス革命前後の時代に生きていた人物で、西洋科学の進歩につれ、世界中からさまざまな未知の生物がもたらされるようになり始めた生物学の黎明期でした。さまざまな新たな種がもたらされると、それらを既存の種の名に新たな語を追加して命名する場合が多く、複雑な名前が増え続けてしまうという状態が常態化し、先に述べたように分類学の世界で混乱が起こるようになりました。リンネの考案した新たな手法は、それらを体系的に整理したもので、その後の新たな種の追加にも柔軟に対応できるようなりました。

 

分類学上の階層を理解する。

分類学上の階層は実に複雑です。まずは身近な我々「人類」和名は「ヒト」はどんな位置なのかみていきましょう。

 

ヒトの分類学上の位置は?

我々「人類」も地球上に存在する生命の一つという位置においてただの一つの「生き物」であることは言うまでもありません。ちなみにご存知のようにその和名は「ヒト。」学名は Homo sapiens sapiens です。ちなみにラテン語で「賢明な人間」と言う意味だそうです。

  • 真核生物ドメイン  Eukaryota
  • 動物界  Animaria  
  • 脊索動物門  Chordata
  • 哺乳綱  Mammalia
  • 霊長目  Primate
  • ヒト科  Hominidae
  • ヒト属  Homo
  • 種 Homo sapiens

それぞれの階層にサブの階層があったりするので本当はこの倍以上の複雑な階層がありますが、基本的な階層だけをピックアップして表すとこうなります。

ちなみに先ほど「ヒト」の学名は Homo sapiens sapiensと言いました。”sapiens” が重複していますが、間違いではありません。実は上の「種」の下に「亜種」と言うのがあって同じ”sapiens“なので今現在を生きている人類の学名はHomo sapiens sapiens で正解です。

話が少し脱線してしまいますが、「ヒト属」に属する種には他にどんな種が思いつきますか?多分学校で勉強したことがあるでしょう。ホモ・エレクトゥス(直立原人)、ホモ・ペキネンシス(北京原人)とか、ホモ・ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人)がそうです。250万年ほどまえ、それまでの猿人の枝から新たな小枝が芽生え始め、ヒト属の枝が伸びてきます。さらに30万年前ヒト属の枝からいくつか分化した枝の一つが急速に成長を始めました。現代人の共通の母と言われるミトコンドリア・イブがアフリカの大地溝帯で生きていた時代ですね。その枝がHomo sapiens、旧人です。そしてHomo sapiensは、長い地球の歴史のスケールの中ではほんの瞬きをする一瞬で地球全土に広がっていき、その進化の結果およそ15万年前に新人、Homo sapiens sapiens、に進化が完了したと言われています。

 

さて分類学上のカテゴリー「階層」を見ていきましょう。

 

こちらから先は分類学上の分類より、むしろ現場では一般的に「哺乳類」とか「魚類」とかの「〜類」、または「カニの仲間」とか「ウミウシの仲間」とか「〜の仲間」系がよく使われますが、一応分類学の基礎はおさえた上で使ったほうが誤解がないと思いますので、ぜひご一読ください。

ドメイン(domeine)

分類学上の最もベーシックなカテゴリーで、古細菌ドメイン、細菌ドメイン、真核生物ドメインの3つに分かれますが、これらは時系列的にはまず古細菌ドメインが繁栄し、次に細菌ドメイン、そして真核生物ドメインと縦に進化していったことが伺えます。

古細菌ドメインは現在でも深海の熱水鉱床や南極の氷の中など、地球上でもいわゆる極限環境でも生きていける細菌です。

細菌ドメインに属するのはいわゆるバクテリア。これらは結構身近に見られるもので、ダイビングでは海底温泉や地下水が湧き出しているようなところにゆらゆらと漂っている綿ゴミのようなヤツとか、澱んだ貯水池などの表面に緑色の膜のように広がるヤツとか、水槽でお魚を買っている方なら少し手入れを怠るとライブロックなどに蔓延ってくる赤いヤツとか、これ全部バクテリアの仲間です。

それ以外は全て真核生物ドメインに属します。このドメインがいわば一本の木の芽であり、この木が成長しながら枝から枝へ分化(進化)していくことになります。

 

界(かい、英語:kingdom

ドメインのうち真核生物ドメインのみが分化していきます。

まずは二つに分かれた枝の一つは動物界、もう一つが植物界です。これは説明するまでもありませんね。

 

門(もん、英語: phylum, division

さてここからは一つ一つのカテゴリーを説明していくとキリがないので、海藻類を含む植物界には申し訳ないですが、動物界のしかも私たちダイバーに馴染みが深いもののみピックアップしていきます。

  • 脊索動物門 多少の誤解を恐れずにざっくり言うと、神経系統(少なくともそれっぽいの)がある動物のグループ。哺乳類や魚類、鳥類などのいわゆる脊椎動物がほとんどですが、尾索動物のホヤなども含まれるのがちょっと残念(汗)。ちなみに脊椎動物は「脊椎動物亜門」として「脊索動物門」のサブカテゴリーとして扱われています。

  • 節足動物門:海ではエビ、カニ、ヤドカリ、フジツボ、カメノテなどが代表的ですが実は陸上において昆虫類も含まれるのでおおよそ動植物全てを含めておおよそ最大のグループです。
  • 刺胞動物門:サンゴとかクラゲとか。めちゃくちゃ種類多い。特にサンゴはサンプルを採取して骨格を分析しない限り種小名の特定は難しいので、現場では学名での表記率が高くなります。
  • 軟体動物門:イカ・タコ・貝類・ウミウシが含まれます。ウミウシ類は最近未記載種や新種が多く出てくるのでこちらも学名表示率高しです。
  • 棘皮動物問題:ウニ・ヒトデ・ナマコなど
  • 環形動物門:代表的な生物といえば釣りの餌に使う「ゴカイ」
  • 扁形動物門:海ではヒラムシ、陸ではサナダムシ

その他、動物界には20以上の門がありますがキリがないのでこの辺で・・・

 

綱(こう、英語: class

ここでは脊索動物門の脊椎動物亜門からの進化を見ていきましょう。

脊椎の神経系統を獲得した脊椎動物は次に顎を獲得した種と、しなかった種に分かれます。またこの辺からは階層の分類では複雑になりすぎるので近い種をまとめて「〜類」表記するパターンも多くなってきます。顎を獲得した種が顎口類で分類学上では顎上上綱。さらにそれが分化して二の枝に分かれます

  • 軟骨魚綱 サメやエイのグループ
  • 硬骨魚綱 さらに’進化して将来的に陸上に生息域を獲得するグループです。

さて硬骨魚綱はさらに鰭の成り立ちの点で二分化します。一つはヒレが現在の魚類のように棘と膜に進化し、肺の代わりに浮き袋が進化します。他方はヒレが肉質化していきました。

  • 総鰭下綱 現存する生きた化石と言われるシーラカンスはここ。
  • 肺魚下綱 ある程度は陸上でも生きていられると言われるハイギョがこちら。
  • 四肢動物亜綱  いわゆる手足を獲得したグループ。言うまでもなくこの末裔が私たちです。

時間軸を若干遡って四肢動物亜綱の生き物はほぼ同時期に両生類と爬虫類に分かれます。

  • 両生綱 言うまでもないですね?カエルやトカゲ、ヤモリやサンショウウオなどのグループです。
  • 爬虫綱 こちらも同様。ウミガメをはじめとしたカメの仲間、ヘビ、絶滅した恐竜もこのグループです。

ここで両生類も爬虫類も未だ卵生ですが、両生類の一部、今でもモリアオガエルのように陸上の樹上で産卵する種がいるように徐々に羊膜を進化させ、発生(卵)の段階で水辺に依存することなくドライ環境でも繁殖が可能とする種が出てきました。時系列的には両生類から有羊膜類、そして爬虫類となります。恐竜の時代になれば分厚い殻の卵に羊膜という名前の卵黄を発達させた卵で完全なドライ環境でも繁殖が可能となりました。

あとはみなさんもおそらくご存知の通り、恐竜は進化して鳥類となり、恐竜と同時期に繁栄した単弓類と言われるネズミのような小型生物が進化して哺乳類となっていきます。

このへんが分類学を説明する上で最も複雑で自分も結構混乱しがちなところ。分類学に忠実にいくと階層が複雑すぎて訳わからなくなるし、はしょって類にしてしまうと進化の上下関係がわからなくなってしまうというジレンマに陥るのでした。

 

目(もく、英語:order

ここまで来ればわかりやすいです。例えば硬骨魚綱の下の目を見ていきましょう。

  • スズキ目!!:硬骨魚綱のカテゴリーで種小名のおよそ90%は全てこのスズキ目に属します。
  • ウナギ目
  • カサゴ目
  • ニシン目・・・・その他諸々。

 

科(か、英語:family)

先の硬骨魚綱の90%を占めるスズキ目を例に挙げると

  • ハタ科
  • テンジクダイ科
  • アジ科
  • フエダイ科
  • スズメダイ科   その他諸々

 

 

属(ぞく、英語:genus)

ダイバーに最もポピュラーなスズメダイ科をさらに分類すると

  • Amphipiron  : クマノミの仲間です。
  • Chromis : デバスズメダイやアオバスズメダイのグループ。
  • Dascyllus : ミツボシクロスズメダイやリュウキュウスズメダイ系のグループ。
  • Plectroglyohidodon  : ルリボシスズメダイ系の農場を営む系のグループ。偶然に依存せず、死サンゴに自分達の食料を積極的に植え付けて育てる農業家。農場を守るためでしょう。気性は荒いです。

他、スズメダイ科には他に5つほどのグループがあります。

 

というわけで、この世の中の生き物には全て学名があり、その形態や歴史を反映した名称が付けられています。調べていくと面白い発見があるかもしれませんし、最近はアマチュアのダイバーが発見した種もたくさんありますが、新種として認められるためにはその種が突然変異でないことを証明するために、また、あるいは正式な和名として認められる際にも、規定の数の標本を採取して学術論文を発表することが基本です。なのでなかなか一般のダイバーにはハードルが高く、しかし、セミプロ的な学者レベルのダイバーも増えてきて、現在ではある程度知られてはいるけど正式に学名や和名のついていない海の生物が多くなっているという現状があります。したがって、まだ正式な学名のない「〜 sp .」や、和名がついていないため学名表記や、あるいは正式な和名ではない仮称や、愛称で呼ばれている生き物がどんどん増えてます。学名の成り立ちや分類学の基礎を知っているととっても便利だということがお分かりいただけたでしょうか?

 

最後に、

 

昭仁上皇陛下は実はハゼの研究者であられます。ハゼ類には上皇陛下が学名記載したものや、和名を付けられた種が少なくありません。有名なところではアケボノハゼやギンガハゼ、ニチリンダテハゼなどは上皇后陛下が和名を提案され、上皇陛下が命名されたそうです。また去った昨年2021年には沖縄産の2種類のハゼの新種を発表されたことは記憶に新しいところです。Callogobius albipunctatus(アワユキフタスジハゼ),Callogobius dorsomaculatus(セボシフタスジハゼ)ですが、学術論文には例えば上のアワユキフタスジハゼにはCallogobius albipunctatus Akihito & Ikeda, 2021.と記載されています。

 

 

この記事を書いた人

案納昭則

潜水歴四十年、総本数12000本を超える現役のSSI(スクーバ・スクール・インターナショナル)インストラクターでありJPS所属の職業写真家。
2003年にNHK「趣味悠々〜水中散歩を楽しもう(全7回)」講師を担当。上智大学外国語学部フランス語学科中退。
NPO法人沖縄県ダイビング安全対策協議会事務局長を歴任。

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