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高齢者ダイバーに知ってほしい浸漬性肺水腫のリスク

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この記事はまだ下書き中です。イラストなどを入れてみやすいようにしたいと考えてますが、自分自身絵心がないので、どこかでフリー素材を探してくるつもりです。長い目で、とりあえず文章だけでも読んでいただけたら幸いです。

 

浸漬性肺水腫(しんせきせいはいすいしゅ、または、しんしせいはいすいしゅ、)あるいは浸水性肺水腫ということもあるようです。

20年ほど前から潜水医学会に採用されるようになった比較的新しい潜水障害の症例ですが、過去にも単なる肺水腫とか二次溺水などで処理されていた症例かと思われます。最近になってそのメカニズムが明らかになり、特に高齢者ダイバーにおけるリスクが指摘されるようになりました。高齢者ダイバーと書きましたが、高齢者に限らず若年層でも起こりえます。またダイビングやスイミングのインストラクターレベルの経験者でも発症し、死亡した例も少なくありません。

近年、高齢者のダイバーが特に海外のダイビングショップにおいて無碍に断られるのは、この浸漬性肺水腫を極端に恐れてのことと推察されます。正直言いますと、自分もそのリスクに晒されている高齢者ダイバーの一人です。浸漬性肺水腫は十分に自認してリスク回避さえすれば、命を落とすほどの重大事故には至らないと自分は確信しています。すべてのダイバーにこのブログを読んでいただき、浸漬性肺水腫の原因、リスク、そしてリスク回避し安全にダイビングを終えるための知識を身につけてほしいと切に願いこの記事を書いています。

また当店は高齢者ダイバーを歓迎します。ただし、この記事はもちろん、その他ダイビング理論に関する記事も良くご覧いただき、ご理解いただいた上でご参加いただけると幸いです。わからない点があればメールや、zoomでもご質問にお答えしたいと思います。

 

浸漬性肺水腫とは

結局は肺水腫なので、簡単に言えば肺に液体が溜まり、換気がうまくできない状態です。 息苦しさを感じ、放っておくと重症の呼吸困難を起こし、水中においては手の施しようがないため、救命率が下がります。

 

まずは呼吸のシステムを簡単におさらい

呼吸というと普通は息を吸ったり吐いたりのことと思っている方が大多数だとは思います。しかしながら、あれは単なる見かけだけの呼吸であり、複雑な呼吸システムの最初と最後のステップに過ぎません。

実際の呼吸とは、外呼吸と内呼吸に大きく分かれます。鼻から入ってきた新鮮な空気はまずは喉仏を経由する気官を通り、気管は大きく二つの気管支に分かれて右と左の肺へ送られます。そこから先は気管支はどんどん枝分かれしていって、どんどん細くなり、毛細気管支となって最終的にブドウの房のように連なる肺胞へと至ります。

余談ですが、肺胞以外は単なる空気の通り道なので、医学的な呼吸とは全く関係がありません。これを「死腔」といいます。浅い呼吸を続けているといつか頭がクラクラしてくるのは空気が完全に循環されずに同じところを行ったり来たりしているためガス交換が正常に行われていたいためです。

成人の肺胞をすべて切開して敷き詰めるとその表面積はテニスコート一面分になるというから、いかに微細な器官だとイメージできるでしょう。そしてそれぞれの肺胞には心臓からの肺動脈が枝分かれした毛細血管が網目状に取り巻いています。肺胞の外壁と毛細血管の外壁の間は「間質」と呼ばれる隙間があり、その隙間を介して酸素と二酸化炭素の移動が行われます。全身を巡ってきた毛細血管内の酸素濃度は13%、肺胞内の酸素濃度は21%なので、間質では両者の濃度が同一の18%になるまで、肺胞内に酸素が取り込まれていきます。ただしこれはあくまでも圧力勾配によって血漿に取り込まれる酸素で、ご存じのように実際は酸素は赤血球中のヘモグロビンと積極的に結合して血液中を運搬されますので、実際に血中に取り込まれる酸素量はこんなものではありません。逆に全身を巡ってきた毛細気管支内の二酸化炭素濃度は8%。 かたや肺胞内の二酸化炭素濃度はほとんど0に近いので、間質では両者が同じ濃度になる4%ほどまで二酸化炭素は肺胞へ移動し体外に排出されます。こちらは単に圧力差のみでの排出です。

これが外呼吸です。

内呼吸では肺胞で取り込まれた酸素が体内のあらゆる細胞を潤し、老廃物である二酸化炭素を排出するというメカニズムですが、このテーマでは直接関係ないので詳細は割愛します。

 

ダイバーズ・リアクション(潜水反応)こそがその直接的な原因

ダイバーズ・リアクション(潜水反応)という言葉を聞いたことがありますか?

すべての陸生の哺乳類は顔を水に浸すと心拍数が下がり、手足などの末端への血流を抑制し、体のコアな部分である内臓に血流を集中するという不随意反射(無意識下で行われる反応)を有しています。哺乳類である私たち人類も然りです。フリーダイビングではこの反応の有効活用して長時間の潜水や息こらえを可能にしているとも言えます。極端な話、顔を洗っただけでも「潜水反射」は起こります。ただ一瞬で継続的ではないので大きな影響はありません。

ここで問題になるのはダイバーズ・リアクションの「体のコアな部分である内臓に血流を集中するという不随意反射」です。

ダイビング中にいたずらに尿意を催すのも実はこの潜水反射のためです。体のコアに血流が集中するので当然腎臓への血流も普段より増加するので、尿の生成も普段より増加するというわけ。

同様に肺への血流も増加しますので、肺胞を取り巻く毛細血管の血圧が増加します。これが進行すると毛細血管から間質に血液の液体成分である血漿が流入し、間質が厚くなるのです。そうするとガス交換の距離が物理的に長くなるので、ガス交換の効率が悪くなります。普通に呼吸していても肺胞でのガス交換の効率が低下するので、息苦しさを感じるようになるというわけです。

潜水反応は単に顔を洗ったり、水泳でも起きうる反応なので、極端な話、ただの水泳中に発症して命を落とした方もおられます。

高齢者だけではなく若齢者でもリスクゼロというわけではありませんので、まずはそのリスクを認識し、まずはそのリスクを回避するための準備を行い、その前兆を自覚した際には正しくリスク回避ができることが必須となります。

 

高齢者にリスクが高いワケ

一番リスクの高い要因は高血圧症に罹患しているのに、普段の健康診断を怠っていたり、久しぶりにダイビングをした際に隠れ高血圧になっている方です。

ただでも潜水反射で肺胞毛細血管の血圧が増大しているのに加えて元々の高血圧があるので、知らないうちに発症してしまう可能性があります。50を過ぎたら必ず毎年人間ドックとはまでは言いませんが定期的な健康診断は欠かさないようにしてください。

若年性の高血圧もありますので、若い方も油断してはいけません。毎年とは言いませんが、定期的な健康診断やダイビング前の血圧測定は欠かさないようにしましょう。

ちなみにきちんと高血圧を自ら認識していて、定期的に通院して高血圧抑制の薬を処方されている方なら、きちんと処方通り毎日服用していれば、浸漬性肺水腫のリスクを逆に軽減できるという報告もあります。

その他様々な持病に応じて様々な薬を処方されていればどうしてもリスクのプラス、マイナスはありえるでしょう。

また閉経後の女性もリスクが高いと聞きます。

 

たこつぼ心筋症

閉経後の女性によく見られるとされる「たこつぼ心筋症」という疾患があります。

突然胸痛や息切れなどの症状を発症して心臓局所(先端)の収縮低下が見られる。というもの。

浸漬性肺水腫によるストレスが要因でこの「たこつぼ心筋症」を誘発して、ただでも浸漬性肺水腫による高度の低酸素状態になっている上に心臓がうまく機能していないためさらにリスクが高まると言われています。

 

浸漬性肺水腫を回避するためにできること

 

まずは定期的な健康診断を欠かさないこと

何よりもこれにつきます。沖縄では「病院うとぅるー」と言いますが、病院嫌いの人。特に注意してください。

断言しますが、高齢者向けの特定健診を毎年サボっている方などはダイビングすべきではありません。

毎年の特定健診は言うまでもなく、できれば毎年人間ドッグを受診して、浸漬性肺水腫になりやすい既往症がある方は、きちんと医師の診断を受けて治療を行ってください。

浸漬性肺水腫になりやすいとされる既往症としては、先述した通り、なんといっても高血圧症です。実を言うと私ももう40代から高血圧を指摘されていて、ずっと降圧剤を処方されていますが、高血圧で処方される降圧剤の一部には浸漬性肺水腫のリスクを軽減する効果もあると言われています。「のんではいけない薬」と謳った書籍が出版されるほど、一部には薬物治療を嫌悪される方も一部にはいらっしゃるかもしれませんが、それも否定はしません。ただしそう言う方は今後一切ダイビングはしないでいただきたい。自分のエゴで迷惑を被るのは現場です。

また先述したように、閉経後の女性も注意が必要です。いずれにしろ男女を問わず、高齢者ダイバーはまずは自分の体の状態を知って、ダイビングをする上でのリスクを明確にしておくことは極めて大切なステップです。それさえクリアしていればスクーバダイビングは何歳になっても楽しめるレジャーだと私は信じています。

 

普段と異なる息苦しさを感じたら速やかに浮上

浸漬性肺水腫は、結局、肺でのガス交換が効率的にできなくなってしまうことが原因です。水中でこれまでに感じたことのない息苦しさを感じたら、まずはとにかく水面に浮上することです。息苦しさを我慢して潜り続けると、いつかは必ず破綻して悲劇的な結末に至ります。

水中で今まで感じたことのない呼吸の違和感を感じたらすぐにバディか可能ならばガイドに伝えて、できる限り安全な浮上速度を保ったまま水面に浮上してください。安全に水面に浮上できさえすればまずは命の危険からは回避できるでしょう。

 

すべてのダイビングをエンリッチで!

何よりも!!

高齢者ダイバーはもちろん、すべてのレジャー・ダイバーはエンリッチド・エア・ナイトロックスでダイビングするべきです!

というか当店では今後50歳以上のダイバーはエンリッチで潜ることを義務化しようと計画しているくらいです。初回のダイビング時には必ずエンリッチのスペシャリティー講習を受講いただくこと。当面は1ダイブあたり¥1,100円の追加料金が発生しますが、エンリッチが普及すればその格差は徐々に軽減されるはずです。

日本人ダイバーはともかく自らの安全と健康に無頓着すぎる!そしてガイドやインストラクターに頼りすぎ!

積極的にエンリッチを使うダイバーがいないから日本ではいまだに空気とエンリッチと価格差があるため、日本人ダイバーはエンリッチを敬遠する傾向があります。そこには完璧に負のスパイラルがあります。海外、特に欧米人のダイバーは何よりも自分の健康を大事にするので、エンリッチは急速な勢いで普及していきましたが、自分の健康には全く無頓着な日本のダイバーは多少費用が嵩むという理由だけでエンリッチを敬遠し、今日に至るまで全く普及には至っていません。海外で潜ったことがある方ならわかると思いますが、海外ではもう15年以上前にエンリッチがスタンダードとなっていて、空気もエンリッチも価格差はありません。

エンリッチが普及していない日本のダイビング業界は世界的にはある意味異常なのです!

先ほどの呼吸システムのおさらいをもう一度ご覧くだだい。

全身を巡って戻ってきた肺胞を取り巻く毛細血管内の酸素濃度は13%。ここで普通の空気を呼吸していれば肺胞内の酸素濃度は21%なので、間質では両者の濃度が同一の18%になるまで肺胞内に酸素が取り込まれていきます。ここで我々が呼吸するガスがEAN32(酸素濃度32%のエンリッチ・ガス)だとしたらどうなるでしょう?肺胞内に取り込まれる酸素はおよそ23%になります。仮に多少浸漬性肺水腫が進行していたとしても、呼吸ガスの酸素濃度が高ければ、発症に至るリスクは劇的に軽減できます。重ねて言いますが日本人ダイバーはもう少し自分の安全と健康にシビアになるべきです。特に高齢者になればなるほど、です!

 

以上、なかなか厳しいことを書き連ねましたが、皆様が少しでも長くダイビングライフを楽しんでいただけるよう、ご理解いただければ幸いです。

重ねて書きますが、ヴィアマーレはこれまでも身障者ダイバーなどのサポートを支援してきましたが、高齢者ダイバーも積極的に支援します! 

ま、所詮は老老介護ですが💦

 

 

 

 

 

この記事を書いた人

案納昭則

潜水歴四十年、総本数12000本を超える現役のSSI(スクーバ・スクール・インターナショナル)インストラクターでありJPS所属の職業写真家。
2003年にNHK「趣味悠々〜水中散歩を楽しもう(全7回)」講師を担当。上智大学外国語学部フランス語学科中退。
NPO法人沖縄県ダイビング安全対策協議会事務局長を歴任。

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