ヴィアマーレ

グラディエント・ファクターを理解しよう!

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皆さんはグラディエント・ファクターという言葉を聞いたことがありますか?

無限圧潜水が絶対条件とされている一般のスクーバダイバーにはあまり馴染みのない言葉かもしれませんが、テクニカル・ダイビングで減圧を前提とするダイビングを計画するには必ず必要となる知識です。そして自分の体を大事にして長くダイビングを続けたいと願うスポーツ・ダイバーさんにもぜひ学んでいただきたい知識なのです。

グラディエント・ファクターを理解するには基本的な減圧理論に習熟していることが必須ですので、減圧の知識に自信のない方はまずはこちらの記事「世界一わかりやすい減圧理論の解説書」をご一読ください。

テクニカルダイバー同士の会話では「ところでグラディエント・ファクターはどうしてる?」なんて会話が合言葉のように交わされたりします。グラディエント・ファクターとは要はダイビングの減圧プロファイルを決定する際の保守性(安全性)をコントロールする数字です。ダイビング・コンピュータなどで安全性をより厳しく設定できる機能などが付いている機種がありますが、グラディエント・ファクターはその設定の根拠となっているもので、自分自身の必要に合わせて自由にカスタマイズするために必要不可欠な「魔法の数字」です。レジャーダイビングにおいても自身の安全と体の健康には必要不可欠な知識でもあるのです。

ここではSSIのITD(インストラクター・トレーナー・ディレクター、インストラクターの先生のそのまた先生です)であり、リブリーザーなどのテクニカル教育部門のトップであるポーランド出身のPrzemysław Kacprzak氏によるSSIセミナーでのレクチャーをご本人の許可を得て日本語に訳し、公開させていただくことができました。YouTubeにアップされた氏のレクチャーはもちろん話し言葉なので、日本語版公開にあたり、文語調に読みやすく編集したため大胆に意訳した部分もあります。ご本人の意図とは多少乖離した部分もあるかもしれませんので悪しからずご容赦ください。

英語に堪能な方はぜひこちらの原本動画もあわせてご覧ください。

 

 

最近沖縄でも自己流の減圧症と紙一重の危険極まりない減圧潜水も一部では普通に行われていますし、そういったダイビングを提供する無責任極まるショップも散見されますが、どうしても減圧ダイビングをやりたいなら、正しい知識と技術を習得すべきです。SSIのデコンプレッション・ダイビングSPでは安全に、かつ体にも優しい減圧潜水を学ぶことができます。この記事を読んでもっとグラディエント・ファクターを知りたくなった方も、当店のSSIデコンプレッション・ダイビングSPを受講して、テクニカルダイバーの第一歩を踏み出してみませんか?

 

 

グラディエント・ファクターとは?

グラディエント・ファクター(以後GFと略す)、日本語では「勾配係数」と訳されています。GFはおおよそほとんどのダイブ コンピューターやダイビング ソフトウェアに採用されており、この二つの「魔法の数字」は私たちの知的好奇心を刺激するにたりうるものです。

ここではGFがどのように機能するのか、そしてそれらの数字が実際に何を意味するのかを説明していきます。GFの理論を十分理解し、最終的には自分のダイビングスタイルに合わせてこれらの数字を自在に調整できるようになってください。

解説を始める前にいくつか断っておかなければいけないことがります。ここで説明していく画面上の値や具体的な数値に関してはかなりアバウトな数値となっているので、実数やビュールマン アルゴリズムの実数値を表すものではありません。

グラフを単純化し、理解しやすくするために数値についてかなり簡易化していることを前提として理解してください。ここでは手動で減圧を計算する方法を学ぶわけではなくGFがどのように機能するかを理解したいだけなので、理解しやすくするために、数値をあえて簡略化ししていることを事前に断っておきます。

このプレゼンテーションのある部分では、数値を単純化して、時にはある意味真実とは異なる情報を使用しています。本来はあり得ないことなのですが、今回の目的を達成するためにはむしろ、単純化する方がわかりやすいと判断しました。 例えば組織圧力のトピックで、体内組織圧は水面で1気圧であることはエントリーレベルのダイバーでも知っていることですが、少なくともナイトロックスダイバー以上のダイバーであれば、正確には1気圧ではなく、0.79 圧であることを知っています。なぜなら、私たちの組織に取り込まれるガスとして考えられるのは窒素のみだからです。しかし、今私たちの必要とするのは、0.79 、1.58、2.37・・といった正確な組織圧数値ではなく、 1、2、3、4、5 バールのような単純な値で考えるほうがずっと簡単です。

したがって、このプレゼンテーションにあたり、GFを理解するという目的のもとに、出来うる限りの数値の単純化を行いました。それはある意味、虚偽と言われるほどのものであるかもしれませんが、これは単にあくまでも目的達成のためにわかりやすくするという目的のためのものですので、目的を達成したのちにはむしろ忘れてください。

 

 

 

不活性ガスの体内への吸排出

 

宇宙普遍の法則

まず第一に、最も大事な普遍の法則を理解しましょう。我々が暮らすこの宇宙ではすべてが平衡であることを理想としています。あらゆるものがすべて等しくなろうと働きます。 例えばある二つの物質を一方は熱し、もう一方は冷却してその二つを結合すると温度が均等になろうとし、最終的に両者が同温度になったところで安定します。あるいは 圧力の異なる二つのガス容器を接続して開放すると、圧力は等しくなろうとします。 つまり、圧力が高い所からのガスは、圧力が均等になるまで圧力が低い所に移動するのです。 つまり、この宇宙ではすべてが均衡状態にあるのです。 この普遍の原理こそが私たちの体内におけるインガス(ガスの吸収)とオフガス(ガスの排出)が行われるときの基本原則ともなっています。

 

オンガス(不活性ガスの体内への吸収)

 

 

あなたは今陸上にいて、過去数日潜っていなかったとします。 今、私たちの体内組織圧は完全に他の人々と同様、大気圧下で安定しており、窒素の圧力が周囲の圧力と等しくなっているので、体内ガス圧は 0.79 であり、呼吸ガスの圧力も 0.79 。 これは大気圧下での窒素の分圧ですが、今のところ水面上では平衡している状態にあります。

さてここから潜降を開始したらどうなるでしょうか?10メートルまで潜降した時に、潜降開始時点で 私たちの体内組織の窒素分圧は0.79気圧であり、これは水面での窒素分圧に相当しますが、10メートルまで潜降した時に変化したのは私たちが呼吸するガスであり、その窒素分圧は水面よりも2倍高いので1.58バールになっているため、高いところから低いところへ流れるという宇宙普遍の原理に従い、窒素ガスは肺胞を介して肺から体内へと移行していくことになります。 これを圧力勾配といいます。

窒素ガスの移行は肺胞を介して行われ、血液は窒素を体中に伝播していきます。

さらに深度20メートルまで潜降すると、また同様のステップが繰り返されることになるのです。1 秒以内に 20 メートルに降下すると想像して見ましょう。体内にはまだ 0.79 バールの窒素が残っていますが、呼吸ガスの窒素分圧は 2.37。 気圧差は 10 メートルのときよりも高く、1.58となり、30 メートルに行くと気圧勾配は 2.37、40 メートルに行くと窒素分圧は 2.16 barとなります。要は分圧差が大きくなればなるほどガスはより速く移動するということは周知の事実です。 

車のタイヤで考えてみるとわかりやすいかもしれません。車のタイヤの空気圧が 1.5気圧の小型車と大きなホイールを備えた巨大なオフロード車について比較してみます。オフロード車のタイヤ圧は、そう3.5気圧ぐらいにしてみましょう。さてそれぞれのタイヤに同時に故意に穴を開けると、タイヤの空気圧が高い車のほうが、空気圧が低い車よりもはるかに速く空気が抜けていくでしょう。

さて潜降を始めてすぐに水深40mまで潜降すると3.16気圧の圧力差が生じ、窒素は肺胞を通って血流によって運ばれ、たとえば水深 10mに潜降したときと比べるとはるかに速い速度で体内組織に移動することになります。 それこそが、まさに私たちが深部にいるときに無減圧時間が短くなる理由なのです。同じ時間経過でも、水深10mに潜降した時と比べるとはるかに多くの窒素を吸収しているからであり、減圧を必要とするステージに移行する時間が短くなりますが、それは単に浅い水深に比べるとより高い圧力勾配のため、我々の肺胞ではより多くの窒素をガスを体内に吸収してしまうからなのです。

 

オフガス(不活性ガスの体外への排出)

 

 

上のスライドは浮上時の様子を示しています。現在水深40mにいると想定し、体内組織が完全に飽和に達するまで十分な時間そこに留まるとします。 組織がほぼ飽和の状態に達するまでにどれくらいの時間がかかるかは、体内のそれぞれの組織によって大きく異なりますのでここでは問題ではありません。全ての組織で飽和状態になる飽和潜水は、私たちがコマーシャルダイバーと呼称する、飽和ダイバーが日常の業務で行なっていることであり、彼らの体内ではあらゆる組織がその水深でこれ以上のガス移動が起きない限界値まで内部ガスを保有していることを意味しており、身体全体が環境圧と完全に平衡状態にあるため、その時点では水中で溶接作業をするのに 1 週間かかろうが 1 か月間かかろうが問題にはならないのです。同じ水深にいる限り、これ以上のガスが体内に取り込まれることもないので、どれだけ長く潜ろうが減圧義務は一定となります。

そこで例題として、私たちの体が水深40 メートルで完全に飽和していると想定してみましょう。 水深30メートル浮上すると何が起こるでしょうか。私たちの体と肺、または体と呼吸ガスの間には潜降時と同様の圧力差が生じていますが、今度は潜降時の逆方向への移動となり、我々の体内ガス圧は呼吸ガス圧よりも高いため、ガスが体外へ排出されていくオフガス状態となります。常にガス圧が高いところから低いところへ移動するという普遍の原理に従っているのです。 そしてさらに浮上すると再び同じループが繰り返される。 より浅い水深に浮上すればより大きな圧力差が生じ、圧力差は大きければ大きいほどより効率的にガスを放出できるため、「もってこいじゃないか!」とばかりに仮に100メートルまで潜って、ダイビングが終了したのち直接水面に浮上したら、その圧力差は極めて高くなるためガス排出プロセスも最も効率的になると理論上は考えられます。しかしながらそんなことは不可能であることはダイバーなら誰もが知っています。なぜならそんなことをすれば我々は皆、すべからく減圧症で命を落とすことになるに違いないのです。 それがなぜなのかについては後述していきます。

 

ダイビング中のガス吸排出をシミュレーションする

 

 

画面に表示されているのは、これからのプレゼンテーションの大部分を費やすことになるグラフです。 このグラフは、組織内の圧力と周囲の圧力との関係を表しており、後者はこれを呼吸ガス圧として考えることも、単純に深さとして考えてもいいでしょう。X 軸は基本的に環境圧(Ambient)を表します。 圧力の単位で表していますが、深さに変換して、1気圧を水面、 2気圧が水深10 メートルなどというようにみることもできます。単純にいうとX軸は基本的に深さを表していると言っていいかもしれません。 次に、体内ガス圧を気圧単位で表す Y 軸があり、組織(Tissue)というラベルが付けられています。このグラフについては後述しますが、ここではある特定の組織コンパートメントを表していて、その中に溶解するガス圧力を示しています。

次に、理解すべき非常に重要な線があり、これを「均衡線」と呼びます。このライン上ではX軸の値がY軸のそれとまったく同じであることを意味します。 たとえばライン上に例として示された点においては、下に行くと 4 bar になり、左に行ってもやはり 4 bar になり、これは組織内の圧力が 4 bar であることを意味し、呼吸ガスの環境圧力と等しくなっており、その組織は完全に飽和しているということを意味しています。組織内の圧力が周囲圧力と同じである場合、組織は完全に飽和しているため、まず我々が深度を変更しない限り、その組織は窒素やヘリウム、その他我々が想定すべきガスについてはこれ以上の体内への吸収は起きないはずです。要はその線上にあるときはいつでも、組織が周囲と平衡状態にあることを意味しているのです。 次に水色の太いラインで示すのは「水面線」です。これは、基本的に水面を表しており環境圧力が1気圧であることを示す線であり、この線のどこかに触れるときはいつでも単に水面に到達したばかり、つまりダイビングを終えたばかりという意味であり、環境圧力が1気圧であるということは、すなわち水面にいるということになります。

 

 

さて、このグラフを正しく理解するために、一つ例を見てみましょう。画面右側の赤い点が表示されているポイントで考えてみます。 そこからは 2 つの情報が得られます。周囲の圧力が 5 気圧を示しているので、今我々は水深 40 mにいるようです。また、その時の組織内の圧力は 3.3 bar となっています。つまり、組織内圧は環境圧よりも低いため、全ては平衡になろうとするという普遍の原理に従い、ガスは肺胞を介して体内に移動中であり、オンガス(加圧)状態にあります。 次に、赤い点が画面左側の位置ある時を見てみましょう。ここでは私たちは水面にいるということを表していますが、これが最初に言及した「おことわり」になります。ここでは周囲の環境圧力は1気圧であることが見て取れ、そちらの方は正しいのですが、ここでは組織内の圧力もグラフ上では1気圧であることが見て取れます。しかしこれが真実でないことはご存知でしょう。窒素分圧を加味すると実際には 0.79 であることは承知の上なのですが、ここでは小数点を持たない整数で考えた方がはるかに理解しやすいので、このプレゼンテーションの主な概念を理解しやすくするという目的のために敢えて簡略化していることをご理解ください。

 

 

それではこのグラフを使用して ダイビング中に何が起こっているかを分析していきましょう。潜降を開始すると周囲の圧力が徐々に増加しするため、画面上では右方向に進んでいくことになります。水深40mまでゆっくり潜降します。 赤いラインをよく観察してみましょう。この線は水深とその水深における体内窒素分圧を表していますが、潜降するに従って組織内圧の緩やかな上昇に呼応して赤い線は少し斜め上へ推移します。潜降を始めた瞬間から徐々に上昇していく周囲の窒素分圧に曝露されるためです。現時点では空気を使用したダイビングについて考えます。従ってここで問題となるガスは窒素だけとなります。さてここで呼吸ガス中の窒素分圧はが体内窒素分圧よりも高くなっていくといういわゆるオンガス(加圧)状態にあり、この時我々の体内ガス圧は緩やかに上昇していきます。圧力がゆっくり上昇するということはY 軸上で上昇する必要があるため、潜降時の局面を表す線は右方向に、かつわずかに上を向いていなければなりません。 さて水深40m地点に到着しました。 私たちの体にはすでにガスが蓄積されており、組織内の圧力はすでにわずかに上昇しています。 どの程度のガスが体内に移動したかは潜降速度に依存します。ゆっくり潜降した場合にはより多くのガスが取り込まれています。潜降速度が速ければより少ないでしょう。ただこのグラフが何を意味するかということを理解する上では重要な問題ではありません 。 私たちはすでにオンガス環境にあるわけですからこのラインは右斜め上のラインを描きます。着底したらあとは楽しむだけです。完璧なダイバーであると仮定し、完璧に自分の体をコントロールして泳ぐことができ、完璧な中性浮力で一寸と違わない水深を維持します。ストリームラインも完璧なので環境圧力は常にピッタリ5気圧をキープするとします。 つまりこの時、環境圧力は全く変化しませんが体内組織圧力には変化が生じます。環境圧力は 常に5 気圧ですが、潜降終了時には体内組織圧はグラフ上ではおよそ1.1から1.2ぐらいでしょうか?ここから同じ水深を維持して潜水を続ける限りは、グラフ上ではまっすぐ垂直に上方に推移します。つまりここでは体内組織へのオンガス状態にあり、対内外の窒素分圧が平衡状態に達するまでオンガス・フェーズが継続します。さて一度5気圧において身体の全ての組織が飽和状態に達すると、体内ガス圧は5気圧下において安定することになります。もちろん空気中には酸素も含まれているので、窒素分圧が 5気圧ではないことはよくわかっています。繰り返しますが、これが私たちがここで便宜上使用する数値の単純化です。 飽和状態に達するまでは常にオンガス・フェーズにあり、飽和に達した時、グラフ上では平衡線上に達したことを意味します。つまり、ダイバー周囲の環境圧力は5気圧であり、ダイバーの組織内のガス圧力もまた5気圧です。その瞬間からダイバーは望む限りその水深に留まることが可能となり、同じ水深を維持している限り減圧義務が更新されることはありません。単に周囲の環境圧力が下がっていくフェーズに移行する、要するに浮上を開始する直前に面白い事実を一つお伝えしたいと思います。ビュールマン・アルゴリズムについては後ほど詳しく説明しますが、最も「速い組織」はビュールマン・モデルではわずか 24 分で完全に飽和に至りますが、これも必ずしも正確とは言えません。ダイブマスターならハーフタイムという概念についてはご存知のはずで、組織は一定の時間で完全飽和状態の半分まで飽和し、同じ時間で残りの半分、さらに半分を 5 回繰り返してほぼ飽和状態に至ります。正確には環境圧力の 98.44% にしか満たず、完全に飽和しているとは言えませんが、ここでは便宜上完全に飽和している見なすことにしましょう。さて、なぜ私がこの情報をこのグラフに載せたのかというと、単に 24 分よりも長いボトムタイムをさらに継続するたびに、ビュールマン アルゴリズムの少なくとも 1 つの組織コンパートメントが完全に飽和することを知っていただくためです。#1から#2、#3、#4と順に飽和していき、最終的に#16 の組織コンパートメントまで順次飽和に達していくのです。まずは象徴的な数字として、ビュールマン・モデルにおける第 1 組織コンパートメントの飽和時間は24 分であることを覚えておいてください。要するに24分後には#1の組織コンパートメントは飽和に至りますが、その過程としては4分のハーフタイムを6回繰り返して飽和に至ります。それでは今度は浮上のプロセスを見ていきましょう。浮上の過程ではグラフ上では単に左側に推移していくだけです。よく見ると、線が下向きになっています。平衡線を超えると、減圧フェーズに入ります。なぜなら、組織内圧力が肺内の圧力、あるいは環境圧力よりも高いことを意味するためです。減圧しているときはいつでも、私たちの組織内圧力はゆっくりと下がっています。一度浮上を開始したら、減圧フェーズに移行し、グラフ上ではいつかは水面ラインに達します。グラフ上ではちょうど表面に到達した瞬間に環境圧が1気圧、組織内圧力は4気圧ないし4.5気圧であることが読み取れます。つまり潜水後には窒素、または窒素とヘリウムが私たちの体内に残留していることを意味します。しかしながらこの事例が非現実的であることは皆さんよくお分かりでしょう。実際には現実的ではないことは皆さんご存知でしょうか。最大水深40 メートルで潜水時間は24分、そしてその後直接水面に浮上したら、確実に減圧症になるでしょう。つまり、このシナリオは実際にはあり得ません。このシナリオでは、潜降時およびボトム・フェイズ、そして浮上時においてこのグラフ上でどのよう表されるかを説明するためだけのものにすぎません。

 

 

それではより高度なトピックに移ります。次のシナリオで、無減圧潜水がこのグラフ上ではどのように見えるかを示したいと思います。まずは深度 40 mまで潜降しし、深度 40 mをキープします。オンガス・フェーズですから身体は時々刻々とガスを吸収していきます。ある時点でまだ完全に飽和には至っていませんが、いずれにせよ浮上することにします。 それはドップラー限界によると 4 分後であり、この 4 分は水深40mにおける無限圧限界時間となります。ここで浮上を開始することになるのですが、浮上中とはいえまだオンガス・フェーズにありますので、ラインは左に向かいつつもわずかですが斜め上になっています。 私たちが常に平衡線の右側にいる場合、環境圧力が組織内圧力よりも高いことを意味するため、常にオンガス・フェーズとなります。したがって、たとえ浮上を開始したとしても、不常駐のどこかで平衡線を横切るまでは依然としてオンガス・フェーズにあります。平衡線を超えれば、組織内圧力が環境圧力よりも高くなりますのでオフガス(減圧)・フェーズに転じ、グラフ上の線も下向きになり、実際に体内からのガスの放出が開始されます。グラフに示すのはその一例ですが、あくまでもシミュレーションに過ぎないことをお忘れなく。水深 40 mから浮上することを決断します。およそ12 mまで浮上しますが、その水深まではガスは体内に吸収されています。そのまま水深12 m地点を通過すると一転して減圧に転じ、ガスは体内から排出されます。この例では、組織内圧力 1.96 気圧で浮上を完了しました。これは十分に安全な実数値と言えるでしょう。組織コンパートメント No.1 は 1.96 気圧の圧力で水面に到達するため理論的には減圧症にはならないはずです。しかしまだいくらかの残留窒素は残ったままであり、意外と多いものですが、一応現行のダイブテーブルでは安全とされています。これの現象を要約すると、グラフを 2 つの領域に明確に分けることができます。青い領域はガス吸収領域(オン・ガス領域)を示しており、赤い領域はガス排出領域(オフ・ガス領域)であり、私たちが青い領域にいるときには常に不活性ガスは体内に吸収されています。数学的に言えば、青い領域にいるときは常に環境圧が組織圧よりも高いため、ガスは体内に移動することになります。 そして、平衡線を越えて赤い領域に入ると、そこは減圧領域と呼ぶことができます。グラフ上の赤いゾーンにいる時には常に実際にガスが体内から排出される「減圧」が進行しています。 従って現在自分がガス吸収領域(青い領域)にいるのかガス排出領域(赤い領域)にいるのかを理解することが極めて重要です。

 

 

ZHL-16C とは何か?

 

 

それでは、Buhlmann アルゴリズムについて説明しましょう。 おそらくコンピューターやコンピューター ソフトウェア、さらにはマニュアルのダイブテーブルなど、ZHL-16C という表記があるのを見たことがあ離ませんか? ZHL-16C は基本的にアルバート ビュールマン博士によって設計されたアルバート ビュールマン アルゴリズムのことであり、博士は 1956 年から取り組み始めています。私が間違っていなければ、その後 80 年にかけてずっとこのテーマのに取り組み続け 1983 年には減圧理論とアルゴリズムに関するすべての研究の成果を集大成した本を出版し、その中で博士は自らの提唱したアルゴリズムをDHL16Cと呼称したのです。 つまり、ZH はスイス人であった博士が拠点としたチューリッヒに由来し、L は「限界値」または「線形」を意味するとされています。実際、私はこの L を説明している 2 つの情報源を見つけました。その中のいくつかには、「一部の情報体系は線形に制限すべきである」との記述があり、正直に言うと、ビュールマン博士が公開した著作で何を意図していたのかは全く不明ですし、博士もこのことについては説明していないため、Lが「限界値」なのか「線形」なのかあるいはそれ以外の他のものを表すものかは今のところはっきりしません。このことについて信頼できる情報を知っている方がいればぜひご教授ください。

次に続く「16」 は 16 個の組織区画を意味します。つまり、私が 先ほど説明したグラフは、基本的にそのうちの 1 つの組織についてラフに説明したものです。私たちの体は実に多くの組織で構成されています。もちろん16 個どころではなく無数に存在します。正確な数字は知りません。医師ならば私たちの体がいくつの組織で成り立っているかわかるでしょうが、私たちはざっくりと血液、筋肉、脳、背骨、骨、髪、爪などの大きなグループとして理解しているはずです。これらは組織であり、それぞれの組織には独自の特性があります。減圧理論で私たちが注目すべきは、それらの組織中において、どれくらいの速度でのガス吸収と排出が行われるのか、そしてその組織における限界値はいかほどかという一点につきます。これについては後述します。 初期のビュールマン・アルゴリズムでは12 個の組織コンパートメントに基づいており、旧式のダイブコンピュータやダイブテーブルの中にはこの旧モデルを採用しているものも散見されます。その後博士は、それを 16 個の組織コンパートメント・モデルに改良して、自分の頭の中にあるアイディアと現実との整合をとることに成功しました。こうして博士はDHL16Cと呼ばれるアルゴリズムを確立することになるのです。 それらのことを鑑みると私たちの体には組織コンパートメントに呼応する「組織」なんてものはありません。ましてや「組織No.1」でもないのです。現場では「組織」とは呼んではいますが、これはダイビングコミュニティで共通認識としてのワードであるためで、これが私たちの実際の体の「組織」に紐づくものでは決してありません。これらはあくまでも数学的に計算された「架空の」区画(コンパートメント)であり、実際の減圧アルゴリズムはこういった区画に基づいて演算が行われており、最初のコンパートメントが最も速く、16 番目が最も遅い組織として定義されています。

要するに、ビュールマン アルゴリズムの組織 No.1 においてはオンガスもオフガスも最も速く進行し、組織 No.16 ではオンガスもオフガスも最も遅く行なわれることを意味します。これらは私たちの体内における実際の組織ではなく、あくまでも数学的なコンパートメントであることに留意してください。これは「組織コンパートメント」や「ビュールマンコンパートメント」あるいはネットでは他にも似通った表現で呼ばれていますが、これらの区画はアルゴリズムが実際に使用している数学的モデルであって、実際にビュールマンが研究成果として発表した 16 個の組織区画は、基本的に私たちの体組織を数学的にグループ分けしたものであり、まさにここで超飽和が問題になりうるのです。「過飽和」という用語を理解することは重要です。 組織内の圧力が周囲の圧力よりも高い状態が「過飽和」であり、グラフ上の赤い部分では私たちの組織は過飽和状態にあることを意味しています。過飽和という状態があるからこそ、我々は減圧という手順を取ることが可能であり、過飽和が存在しなければ安全な潜水は不可能なのです。繰り返しますが、体内組織におけるガス圧が環境圧力より高いという飽和状態の中で圧力勾配が発生しない限り、余剰ガスの対外への排出は起こり得ないのです。再度確認しておきます。過飽和とは、体内組織に取り込まれたガス圧が環境圧力よりも高い組織の状態を言います。さて、次にビュールマンが確立したのが超飽和限界です。

 

過飽和と過飽和限界

 

先ほどの例を見てみましょう。40 メートルの距離で 24 分間過ごし、その後直接水面に浮上します。この例では、最終的に組織内の圧力は 4.5 気圧になりますが、これでは明らかに高すぎます。 つまり、過飽和限界とは、実際にはあらゆる組織コンパートメントにおける減圧をコントロールしているもので、これがプレゼンテーションの次のセッションになります。過飽和限界は私たちの体内のあらゆる組織における演算に使用されますが、私たちの実際の組織に対して演算しているわけではなく理論上の数学的組織の計算であることを忘れないでください。体内のすべての組織には減圧症を引き起こすことなくその組織が暴露される過飽和の限界があるというふうに単純に考えてみましょう。私たちの組織が過飽和状態になること自体は、なるほど問題はありません。が、しかし、過剰な過飽和に晒されることは問題です。なぜなら、組織が過飽和になりすぎると、つまり組織内の圧力と周囲の圧力の差が大きくなりすぎると減圧症を発症してしいまいます。 さて、この超飽和限界について、グラフ上に超飽和の例を用意しました。先ほどの40 メートルのダイビングの例に戻ります。40 mでダイビングしていたと想像してください。40mの水深を維持して、完全に飽和したとします。 その時私たちは平衡線上にいます。ここで、練習として、このグラフで表す組織が最大 5気圧の過飽和になるとします。組織内の圧力差は環境圧力より 2 バールを超えることはできません。 つまり、組織内の開始圧力が 40 mで完全に飽和しているため 5 気圧である時、2 気圧を超えて過飽和することは不可能であることはわかっているため、その時点でその組織は最低 3 気圧の過剰な圧力に曝露される可能性があり、最大 3 気圧の環境圧において平衡します。つまりこのケースでは水深 20 mまで浮上できることを意味します。20 mでの環境圧力は 3 気圧で、組織負荷は 5 気圧、 圧力差の過飽和は 2 気圧 となり、これが最大過飽和限界になります。したがってここで減圧停止義務が生じます。そうしなければ許容される最大過飽和限界、つまり特定の組織に許容される限界値を超えてしまうというわけです。 

 

 

さて過飽和についてはこれくらいにして、有名なビュールマンの M 値については誰もが聞いたことがあると思いますが、ビュールマンの研究についての解説としてはこれが最後の項目になります。ご存知の通りロバート・ワークマンの研究を継承して開発されたものです。ビュールマンの M 値ですが、M 値は単に組織の最大過飽和限界であり、ビュールマン アルゴリズムの 16 個の組織コンパートメントにおけるすべての組織が独自の M 値を持っており、それぞれの組織はそれぞれ独自の過飽和限界に晒されるということであり、それは 16 個すべての組織で同時に起こります。今画面に表示されているグラフでは M 値は単なるグラフ上の線であり、これは数学的に計算されたグラフ上の線であると想像できます。 これは組織における許容最大過飽和値を表しますが、そのラインは平衡線と平行ではないことがわかります。そのため、グラフの解析が得意な人なら、大深度での過飽和限界は浅い深さよりも比較的高いことがみて取れるでしょう。深くなればなるほど過飽和限界値は高くなり、より高い過飽和限界であれば、組織は減圧症を引き起こすことなく暴露に耐えうることができるといえます。 さてM 値とグラフ上のM-Valueラインが定義されたところで、グラフ上で浮上中の動きをみていきましょう。水深40mに止まり体内組織は完全に飽和しています。 周囲の環境圧が5気圧ですので、我々の組織におけるガス圧も 5 気圧です。 計算を容易にするためにこれらの数値は単純化されていることを忘れないでください。水面まで浮上した時に環境圧力は1気圧になりますが、残念ながら実際のダイビングでは直接浮上することは不可能です。 最大過飽和限界を超えてしまうからです。 前述しましたが、グラフ上の赤いエリアはオフガスゾーン、つまり減圧ゾーンでした。そのエリアにいるということは体内組織はすでに過飽和状態にあります。組織は確かに過飽和になってはいますが、まだ減圧症を引き起こすレベルには達していないだけで過飽和限界、すなわちM値に達するまでは浮上を継続できます。しかしながらこのプロフィールでは私たちは ある時点で必ず最大過飽和限界に達します。グラフ上ではM-Valueラインに突き当たる。すなわちビュールマンの M 値に到達するため、これ以上浮上を続けることはできません。減圧症を発症することを防ぐためにはその水深で減圧停止が必要です。 同じ水深に留まりますので、グラフ上では左右にはシフトせず、オフガスゾーンにいるということは組織内のガス圧だけが低下、すなわちグラフ上では垂直に下方にシフトします。グラフ上では 20 mで停止していますが 、グラフ上では真っ直ぐ下に移行し平衡線に達するまでは一定の時間の減圧停止によって体内ガス圧を下げることができます。そうすることで今度は再び環境圧力を下げることが可能になり、もう一度 M 値ラインに達するまで数メートル浮上することができるわけです。その水深で再度停止すれば、オフガスゾーンにいる我々の体内組織ガス圧はさらに低下します。このシミュレーションではその水深で平衡線に達するまで減圧停止します。平行線に達すればこれ以上その水深に留まる意味はないのでさらに浮上を再開することができます。このようにM 値ラインを超えたり、平衡線を超えることなく、環境圧力 が1 気圧に達するまでこの過程を繰り返すことになります。

さてここで描画された赤いラインは何を表しているでしょうか?もうお分かりと思いますが、これこそが減圧プロファイルを示すラインであり、減圧停止を示すモデル図です。浮上可能な水深まで浮上して、再度浮上を開始できるまで減圧停止を行い、減圧停止終了後に再度浮上可能な水深まで浮上、減圧停止を行いさらに浮上、という手順が水面到達まで繰り返される、という減圧プロファイルそのものです。減圧を行わなければならない理由とは、単に直接水面に浮上することが不可能だからであり、そこには超えることのできない M-Valueラインと呼ばれる緑色の線があるからであり、このラインを超えることはできません。さもなくば、組織が許容できない過飽和となり、減圧症を引き起こすことになります。 つまり、このグラフこそが皆さんのお手持ちのダイブコンピュータやアプリが行っていることそのものであって、ビュールマンテーブルまたはダイブテーブルの基礎となっているものなのです。現在の組織内の圧力がどのくらいあり、許容される最大過飽和レベルがどのくらいであるのかを計算し、どの水深で、どのくらいの時間停止しなければならないかを実数で示してくれます。コンピュータは結局このグラフと同じ作業を行なっているのであって、異なることといえばそこでは正確な実数を使用しているという一点に尽きます。

 

 

したがって、勾配係数に進む前にもう 一点説明する必要があります。 このグラフでは、先ほどとほぼ同じ手順を踏んでいますが、今度は 2 つの組織 (速い組織と遅い組織) について検討しています。どちらかは重要ではありません。ここでさらに物事を単純に考えます。すべての組織には独自の M 値があると先ほど説明しました。ということは組織ごとに説明するのであれば、グラフ上に 2 本の M-Valueラインを表示する必要があります。でもここではわかりやすくするために、これら 2 つの組織の M 値は同じであると仮定します。 そのほうがわかりやすいからです。 つまり、具体的に何番目の組織コンパートメントかはわかりませんが、高い組織と遅い組織を任意に選びます。潜降を開始しますが、潜降を開始してまもなく両者の違いは明らかになってきます。速い組織のラインを見てみます。水深40mまで潜降するとして、潜降に2、3分かかるとしましょう。遅い組織が緩い上向の傾斜を描く一方、早い組織は明らかに急な角度で上昇します。早い組織では不活性ガスはより速く吸収するからです。そのまま40mをキープしつつレックダイビングを楽しんでいるとしましょう。組織は一定の速度でガスを蓄積していきますので、ラインは垂直に上昇します。グラフを見るとわかりますが、仮に赤いラインで表される組織がビュールマンの組織コンパートメント No.1 であるとします。およそ5分後には速い組織は平衡線に達し完全に飽和しますが、 遅い組織における体内ガス圧の上昇はほんのわずかであり、早い組織の半分にも達していません。いずれにしろ最も早い組織が飽和に達したからには浮上せざるをえません。ここで注目していただきたいのが、浮上開始以降の二つのラインの動きは全く異なるという点です。速い組織は浮上開始後直ちにオフガスゾーンに移行し減圧が開始されますので左にシフトし、かつ下向きに傾きます。一方遅い組織では水深40mで組織ガス圧が過飽和に達するまでの時間にまだまだかなりの余裕があったために、浮上を開始してもまだオンガスゾーンに止まるため体内ガス圧は依然高くなり続けますが、環境圧も低下するために左上方向に緩やかな上昇を描きます。さて、最初の減圧停止深度に達しました。これは速い組織がその組織に許容されうる過飽和の最大値、すなわちM-Valueラインに突き当たるためであって、遅い組織ではいまだオンガス領域にいて現在進行形で組織圧力は上昇中なので停止する必要はないのですが、最初の組織が私たちを減圧停止深度にストップをかけます。どういう減圧プロファイルであっても私たちにストップをかけるのは常にどれか 1 つの組織コンパートメントで、そのどれかが M-Valueラインに触れているということを意味します。ここでは常に 1 本のM-Valueラインで描かれていますが本当は各組織コンパートメントごとに異なるM-Valueラインが存在することはお断りしておきたいと思います。このケースでは水深20m前後で、早い組織の要請に従い最初の減圧停止を開始します。減圧停止義務を要請した速い組織コンパートメントでは急速に体内組織圧が低下し、グラフ上では垂直下方に推移する一方、遅い組織ではまだオンガス領域にあり、停止したことで遅い組織とはいえ組織ガス圧の上昇は加速してラインは垂直に上昇し、今度は遅い組織がM-Valueラインに到達します。これ以上その水深にとどまると、遅い組織で過飽和に達していますので浮上せざるを得ません。この段階で浮上を開始して初めて遅い組織でもオフガスエリアに突入し減圧が開始されます。減圧のスピードは遅い組織の方が遅いので、遅い組織のラインは早い組織のそれに比べると緩やかです。さてやがて再び早い組織がM-Valueラインに到達しますので、その水深で減圧義務が生じます。遅い組織もすでにオフガスゾーンに入っているので状況はそれほど複雑ではなくなりました。 早い組織がオンガスゾーンに入る前、グラフ上では平衡線に到達する前に再浮上を開始します。さてここで少しイメージしていただいて早い組織のラインを延長してみると再びM-Valueラインに接触することなく水面に浮上することができますが、はい、これでダイビング終了です、とはなりません。そうしてしまうと遅い組織のラインはM-Valueラインを超えてしまうことになり、 この段階では遅い組織がリーディング・コンパートメントとなり、遅い組織の要請で減圧停止義務が発生することになります。最初の減圧停止、またはディープストップにおいては早い組織がリーディング・コンパートメントになるのに対して減圧の最終段階では遅い組織がリーディング・コンパートメントに取って代わるわけです。要するに浮上の段階において、比較的深いエリアでは速い組織の要請で減圧停止が行われ、ダイビングの最終段階になればなるほどより遅い組織が減圧停止を先導するわけですが、その際より早い組織でもさらに減圧が加速します。このケースでは組織コンパートメントを 2 つしかないと仮定してイメージしていますので、これ以上の減圧停止は必要なく、全てのコンパートメントで安全に浮上が完了しました。しかし 実際のアルゴリズムでは組織コンパートメントは16あり、全ての組織コンパートメントにおいて M-Valueラインを超えることなく水面に到達しなければなりません。速い組織のガス負荷は遅い組織のガス負荷よりもはるかに少なく、なぜならどちらの組織も同じ深さで同じ時間暴露されるのですが、速い組織では吸収も速い一方より早くガスを除去できるからです。 この事実を十分に理解しておくことが非常に重要です。この事実を十分に理解してから勾配係数に進むことにしましょう。ここでシアウォーターに代表されるダイビングコンピュータで採用されている組織グラフを参照してみましょう。ここにいる皆さんの中にもシアウォーター社のコンピュータを使用している人もたくさんいると思いますが、実際、世界で最も人気のあるテクニカル用のコンピュータには違いないでしょう。そしてシアウォーターでは画面右に表示されているような組織グラフを潜水中、潜水前に見ることができます。ここに表されているのは、ビュールマンの 16 の組織コンパートメントを表す 16 本の線です。一番上が最も速い組織で、一番下が最も遅い組織です。 こイエローゾーンとレッドゾーンの境界がM-Valueラインであり、これは勾配係数係数によって決定されますが、ここではデフォルトの最大過飽和値になります。 レッドゾーンに進むことはすなわちこの組織が減圧症を引き起こす可能性があることを意味するため、コンピューターでは決して許可されません。 まずはグラフをご覧ください。一度潜降してダイビングの最深部にいるとき、あるいは私たちが浮上を開始したときの速い組織のグラフを見て見てみましょう。少し見えずらいかもしれませんが組織コンパートメントNo.1、No.2 そして No.3 はすでに過飽和に達しており、これらの速い組織がここでは主要な役割を果たしています。無減圧限界を超えて潜水を継続し浮上を始めると、ある時点で最も速い組織が赤いM-Valueラインにぶつかり、この時点でシアウォーターは減圧停止が必要であると警告し、それに従って私たちは減圧停止を行います。 浮上中にすでにこれらの組織での減圧停止中には組織へのガスの蓄積はなくなり、逆に排出が始まりますが、減圧停止中にはさらなる減圧が促進されますので、それらのラインは平衡ラインの左側に戻っていきます。 次回減圧ダイビングをするときには、ぜひこのスクリーンを表示したままにして刻々とアップデートされるグラフを見ながら、16 のビュールマン組織コンパートメントのどの組織がどのレベルで過飽和になり、どのように減圧しているかを観察してみてください。 何人たりともレッドゾーンに突入することはできません。そのため、このグラフをよく見れば、浮上の最初の段階では速い組織のラインが最も右に伸びていたものが、9mでの減圧停止、あるいは浮上の最終局面ではむしろ真ん中あたりの組織のラインが最も右に伸展し、反復潜水においては最も遅い組織がリーディング・コンパートメントに移り変わることすらある様が見て取れるでしょう。ともかくこのグラフは減圧中の暇つぶしにも最適な上に、減圧がどのように機能し、どの水深でどの組織がリーディング・コンパートメントになるのかを理解するのに最適なツールなのです。さてこのグラフはまさに我々がこれまで見てきたグラフ上で検討していたことそのままです。私たちのグラフでは緑のラインが M-Valueラインでしたが、シアウォーターのグラフでは赤いラインであり、過飽和を示す赤いソーンが、ここでは黄色から右側のゾーンでオフガス・ぞーんに相当します。シアウォーターは結局我々がもちいたグラフと同じ手順に基づいて減圧停止を計算しています。要は常に 1 つの組織が M 値に達している場合には減圧停止義務が発生し、減圧停止において組織負荷を低下させて次の減圧停止深度に向けて浮上する、という手順の繰り返しです。

 

元祖ビュールマン・アルゴリズムは信頼するに値するか?

 

 

ここまでの理解が深まれば、本来のビュールマン・アルゴリズムの安全性について検討することができるようになります。つまり、ビュールマンが提唱した本来の M 値を使用して減圧停止を計算した場合、それは本当に安全なのか否か?言い換えるなら、ビュールマンが安全であるとして計算した過飽和の最大制限値をそのまま使用して果たして安全たりうるのか。 さて、ビュールマン・アルゴリズムを使用したダイビングの長年の経験を考えると、現時点ではその答えはノーです。

これらは人体とは直接関係のない数学的な組織区画であるという理由だけで、それが完全に機能しているわけではないことは明らかです。 これは数学的にかつ実験的に作成された数学的アルゴリズムであって、研究の最終段階においても人間ではほとんどテストされていませんでした。最終的にはアメリカ海軍のダイバーを対象にしてテストされるのですが、彼らはとても肉体的に極めて健康体であり、当時の海軍の平均年齢はわかっていますが、ネイビーダイバーに至っては平均年齢はそれよりもかなり若いのは確かです。 彼らは極めて健康で完璧なボディービルダーのような肉体ですので、ビュールマン・アルゴリズムが完璧に機能する可能性があるといえます。さらに海軍ではある程度の減圧症はかなりの頻度で起こりうる環境であり、どの程度まで受け入れることができるのかはわかりませんが、ある程度の軽い減圧症ならそのままスルーするケースも当時はかなりありえたことが推測され、我々が生き残れる程度のレベルの減圧症を許容するのであればともかく、レクリエーションダイビングとしては我々にはより高い安全性が求められるのは必然です。さらにより重要な問題として指摘しなければならない点といえば、本来のビュールマンアルゴリズムには、年齢、脱水症状、肥満、身体状態やダイビング手順上のミスなどの様々な要因が考慮されていないことにあります。 さらに、ビュールマンの研究結果は主に数学的計算と再圧チャンバーを使用して作成されたため、仮に毎分 9 メートルという浮上速度で水深 40 mから 20 mまで浮上すると決めたとするとそんなことは彼らにとっては極めて簡単なことですが、ダイバーである私たちにとってそれは簡単なことではなく、むしろ不可能だとさえ言えます。 毎分9mという浮上速度で40mから20mであれ何であれ正確に一定速度を保って浮上できるダイバーなどはっきり言っていません。エレベーターや再圧チャンバーなどであれば可能でしょうが、現実の生活ではまず不可能です。 したがって浮上速度が狂うたび、あるいは上昇速度が速くなってしまうたびに、ビュールマンが研究で行っていたこととは誤差が生じるということが蓄積します。彼が実験でやっていたことをそのまま追従することができないことが明らかである以上、それでもビュールマン・アルゴリズムとその値をそのまま使用できるとは到底思えません。 したがって、レジャーダイバーである私たちにとっては安全性に対して保守的であるべきであり、保守性が必要であることは何年も前から誰もが理解しています。あらゆるダイビングコンピュータには、例えばレベル1、2、3とか20、30、50などといったように、何かしらの保守性を自主的に設定できる機能が実装されており、このような機能を使って自らの必要に応じて保守性を設定することによって、我々それぞれの個人的な M 値と呼ぶべき値を設定し、本来のビュールマン値から乖離することができます。 このグラフでは新たに引いたSafetyラインが新たに設定した個人的なM-Valueラインになりますが、ご覧の通り、少しだけ離すだけでビュールマンが本来許容していたほどには過飽和にならないようにすることができます。あとはこれまで通り、平衡線に達したところで浮上を開始し、新たなSafetyラインに達したら、減圧停止を行います。このケースでは30mくらいになります。このケースで仮にまだ ビュールマンの提唱した本来の純粋なM-Valueラインに従えば25mまで浮上することができますが、安全マージンを考慮して本来のビュールマンの M 値をシフトした新たなSafetyラインを適用したことによって、最初の減圧停止の深度はより深くなりますが、以降の手順は基本的には変わりません。

 

 

私たちにはより保守的になることが必要であることはご理解いただけたと思いますが、保守性のレベルはパーセンテージで表示することもできます。次の図は私たちのダイビングの最大深度部分を拡大したものだとお考えください。水深が40 mであるとすると、我々の組織は5 気圧で完全に飽和します。 そこには本来のビュールマンM-Valueラインがあり、平衡線から垂直に上昇するとM-Valueラインに至りますが、これがビュールマンが提唱した本来のM値であり、過飽和を超えて許容できる限界を100 パーセントとします。仮にこの時の圧力が5気圧であるなら、M値の圧力は6気圧の圧力であり、我々の組織は1気圧までは超過して過飽和状態を保つことができ、ギリギリ安全であることを意味し、すなわちこれが 100 パーセントのビュールマンM値です。 

 

 

さて次はこのダイビングの浅い部分を拡大したものです。減圧について思い出してください。求められることはビュールマンの M 値ラインを超えずに水面ラインに到達することであり、言い方を変えるなら、M値ラインを超えないギリギリのポイントで水面に浮上することこそが最も早く水面に到達する方法です。 そしてこにポイントがビュールマン・アルゴリズム上で水面に到達した瞬間に許容される超飽和限界の 100% と定義します。そうするとこのグラフには2 つの点があるとイメージできます。水面に到達したときに許容される最大超飽和限界値と、減圧を開始した時点、すなわち最大深度における最大超飽和限界値の二つです。 

 

ここで問題となるのは、「浮上段階全体を通じて同じレベルの保守性が必要か」ということです。なぜなら、前に見たように、この安全マージンラインは、単にM-Valueラインから単純に少しずらして離しただけのラインであり、その距離は深度部分でも水面近くでも一律です。 問題は果たしてそうである必要があるか否かです。この議論は、歴史的にもディープストップについての議論ともオーバーラップします。まず最初にリーディング・コンパートメントについて考慮する必要があります。どういうことかというと、もし減圧手順にミスがあった場合、減圧中の早い段階、すなわちかなり深い減圧深度において減圧症を発症する可能性があり、それはすなわち早い組織に起因し、早い組織内において減圧症が発生するということです。では早い組織とは何か?これらの論理上のビュールマン組織を私たちの実際の生体組織に当てはめるとすると、私たちが言えるのは「早い組織」とは十分に灌流されている組織であり、より多くの血液が流れているためガスの吸排出も極めて早い組織だと考えることができます。賛同いただけるのであれば、「早い組織」を私たちの実生体結び付けることは少し簡単になります。体内でもよく灌流されている組織、すなわち、血流、神経系、脳、脊髄、中耳などの組織は「速い組織」であると言えます。

 

グラディエント・ファクターの本質

 

 

さて減圧段階の初期、あるいは深部において、早い組織が完全に過飽和になり、さらに高圧下で許容される過飽和限界にさえ暴露されつつあるとします。そして早い組織とは十分に灌流されている組織であり、これが血液、脊椎、脳、中耳などに該当するとすると、ダイバーは体調の急変を感じる可能性があります。脳、脊椎、血流など中枢神経型減圧症の症状が何であるかを思い出してください。あまり良くない兆候です。意識の喪失、統合機能の喪失、めまい、嘔吐など、他にもいろいろありますが、問題はダイビングの大深度部でそんなもんとのんびり遊んでられるかどうかです。仮に最大水深100mのダイビングで、最初の組織が、そう、水深60mで超飽和ラインに達したとします。その深さでその組織が減圧症になる唯一のリスクとして念頭においておくべきは、まだ40分間の減圧作業が残っているという事実です。闇雲に浮上することはできません。速い組織における減圧症はかなりリスクが高く、かつそれがダイビングの深い部分で起こる可能性があるとするならば、あまり考えたくはない状況です。 この時点でビュールマンが言うところの過飽和限界の100%にいるわけで、ネイビーダイバーならわけないことかもしれません。でも我々はネイビーダイバーでもなんでもありませんので、できれば40%、あるいは30%あたりにしておきたいところです。大深度下においてあまり速い組織には負担をかけたくありませんし、最も早い組織が減圧をコントロールする主役でもあります。従って大深度では速い組織に対して高い保守性を保持すべきです。 私は自分に言い聞かせています。大深度下での保守性は、ビュールマンの言うところの値の20%にしておこうと。

次に、先ほどの例でダイビングにおける浅い部分での減圧の最終ステージについて思い出してください。早い組織での減圧は無事クリアして浮上の準備が整い、水面に向けて浮上を開始したとします。減圧の最終局面で問題になってくるのは今度は「遅い組織」です。遅い組織は十分に灌流されていないため、 ガスの分配はそれほど速くなく、ガスの吸収も排出もが遅いとされています。たとえば骨組織は確かにそうなのですが、脂肪組織はどうでしょうか?ここは微妙なところです。脂肪組織は比較的十分に灌流されいるはずなのに組織への飽和はゆっくりと進行します。いずれにしろここで我々が理解すべきは、まず第一に、遅い組織で発症する減圧症の症状は潜水後に発症するということ。場合によっては最終段階の減圧停止中に怒ることもあるかもしれませんが、もちろんそれは最大深度や潜水時間によるわけで、もちろんそれは全てにおいての基本原則です。 要するに、言うならば「遅い組織」での減圧症は比較的深刻ではない、と言うことです。もちろん誤解のないように断っておきますが、減圧症にかかって良いというわけでは決してありません。ただ遅い組織での減圧症は直接命に関わるような悲劇を引き起こすことはまずあり得ません。水深100mからまっすぐ水面に浮上するというような無謀なダイビングならともかく、計画されたダイビングであれば問題になってくるのは遅い組織であり、万一減圧症を発症しても対処しやすいのです。例えば、すぐに酸素を吸入できるでしょうし、すぐに再圧チャンバーに行くこともできるでしょうし、他にも様々な選択肢があります。しかし水深 70mなどの大深度下で減圧症になろうものなら事は極めて重大ですが、浅場での停止時や潜水後に減圧症になった場合には生存の可能性は極めて高いわけです。そうであるならば、深い水深におけるビュールマン過飽和限界値の20%といった極めて保守的な値ではなくてもいいのではないか、という考え方もできるかもしれません。例えば70%、あるいは80%あたりでもいいのではないか。あとは皆さんそれぞれの考え方次第です。

 

 

さて、これでダイビングの最深部ではビュールマンの過飽和限界値の30%、そして水面では同じく70%を新たに個人的な過飽和限界として設定しました。 そうするとグラフ上に 2 つの点を置くことができ、これら 2 つの点をただ結ぶだけで新しく一つのラインが描けます。これはビュールマンのM-Valueラインに自主的に勾配係数を積算して得られた個人的なM-Valueラインです。 つまり、これは結局のところビュールマンのM-Valueラインと基本的には同じものですが、ダイビングでのボトムフェイズでは極めて高い保守性を確保し、かつ浮上時にもそれなりの保守性を達成したため、角度は異なってきます。一般のレジャーダイビング向けのダイビングコンピューターにプリセットされている、例えばレベル 1、2、3とか10、20、30、40 、その他諸々の保守性のレベル設定では同様の安全性や保守性を確保することが担保されるとは言えません。一方、グラディエント・ファクターを自由に設定することで、個人個人の必要に応じて、ダイビングにおける各部分で異なる保守保守レベルを変更でき、大深度下と浮上の最終ステージの浅い水深において異なる保守主義レベルを割り当てることで、減圧プロファイルにおいていわば仮想 M 値を新しく作成することができ、実際の減圧はその仮想M-Valueラインに沿って同様のことが繰り返されるだけです。仮想M-Valueライン上の過飽和減圧に達したところで、減圧停止を行なって体内圧ガスを解放し、その後、何度も何度も同様の手順を繰り返すことによって、このラインを超えずに1気圧の環境圧に到達できれば、本来のビュールマンの過飽和限界の、このケースでは70%の体内ガス圧で水面に浮上できるいうわけです。

ダイビングコンピューターや減圧プログラムのアプリでは同様の計算がバックグラウンドで 何回も繰り返されており、組織コンパートメントのいずれかがこの新しく設定したM-Valueラインに触れると、コンピューターは減圧停止を行うように指示するわけです。

つまり、勾配係数の考え方は、単純に浮上中常に同じレベルの保守性を持ちたくない、ダイビングの深い部分ではより保守的でありたい、かつダイビングの浅い部分ではそこまでシビアにする必要はないという考えに沿ったものであり、それはダイビングの各部分において減圧症を引き起こす組織が異なっているためです。グラフ上のGF-M-Valueラインのケースでは、ビュールマン過飽和値に対する勾配係数のパーセンテージは30%から始まり、環境圧力の減少に伴い最終的に70%まで徐々に上がっていきます。 つまり、30、31、40、45 とずっと上がっていくので、組織の過飽和レベルの本来のビュールマン限界値からの乖離は深さとともに増加し、逆に浅いところでは新たなM-Valueラインによって乖離は少なくよりビュールマン限界値に近くなるわけです。実際にシアウォーターまたはマレス・ジーニアスを使用しているダイバーなら自らの現在の過飽和値をパーセンテージで常時確認することができ、最大GF99まで表示されます。つまり、ダイビング中にいつでも自分が純粋なビュールマン飽和限界値の何%まで飽和しているかモニターすることが可能です。仮にグラディエント・ファクターを30/70に設定していたとすると、全てが順調に推移していれば、先ほどの値は常にこれら2つの間の位置にあり、30から始まってゆっくりと70まで進みますが、勾配係数が70の場合、水面浮上時にはリーディングコンポーネントである最も遅い組織が70%飽和であるため、70と表示されます。これは保守性を確保する手段にほかなりませんが、大深度でのリーディング・コンポーネントは速い組織であり、浅い深度ではそれが遅い組織に交代されます。したがって、この図で赤い点線で表されている部分は純粋なビュールマンアルゴリズムに対しての安全範囲であると想定できます。つまり減圧フェイズの最深部での最初の停止ではこの赤い点線は本来の限界値に達する点よるも遠く離れていることがわかります。しかし、減圧停止の最終ステージではあまり離れていないということは深い部分に比べれば安全マージンはより少ないと言えます。さて浮上時を見てみると、ここでは体内ガス圧は70%を示してますが、これはすなわちビュールマンの本来のM-Valueラインまでを100%とした時の70%に該当しているからです。

 

 

それでは、勾配係数の 2 つの例を比較してみましょう。グラディエント・ファクターは低い係数と高い勾配係数の2 つの数値で構成されます。 最初の低勾配係数は、減圧を開始するときに許可されるパーセンテージでの過飽和レベルです。したがって、この深い勾配係数と呼びましょう。 このグラフにはそれぞれの勾配係数に応じたM 値の線が 2 本あります。 黄色のものは勾配係数が50%の場合で、つまりBuhlmann飽和限界値の50%、青色のものは20%です。実際にはどのように機能するでしょうか。 浮上を開始して、現在20の低勾配係数に従っているとすると20%のM-Valueラインに到達したら停止しなければなりません。このケースでは30mで最初の減圧停止に入ります。 このとき勾配係数が50であればさらに浮上を続けることができ、30mを通過して50%のM-Valueラインに達する水深、ここでは25mで減圧停止に入ることになります。このように低い勾配係数は最初の減圧停止の深さを決定します。 というのは低勾配係数を低く設定することで純粋なビュールマンアルゴリズムと比較すると過飽和がより少なくすることを自ら選択したからに他なりません。しかしながらこの場合には否応なく減圧停止のステージはより多くなります。低勾配係数をたとえば50%にすると、より浅い水深まで浮上することができますが、それでも早い組織での飽和度はビュールマンが想定していた値の50%に満たないため問題にはなりません。 いずれにしろ100%ではない限り勾配係数にはどのような数値を入力しても構いませんが、もちろん100%に近ければすぐに過飽和限界に達するわけで、いずれにしろグラディエント・ファクターを設定すれば純粋なビュールマン・アルゴリズムよりも深い水深での減圧停止が必要です。すなわち低勾配係数は最初の減圧停止深度を決定します。最初の減圧深度を深くしたければ低勾配係数を低く設定し、より浅くしたいなら単に数値を高く設定すればいいだけです。 そしてここで再び非常に重要な課題が浮き彫りになってきます。グラフを思い出してください。今のところまだ低勾配係数について話していますが、低勾配係数を選択するときに考慮すべき事実が今ひとつあります。前に説明したように最初の減圧停止を行うときは、最も速い組織がトリガーとなっているため、遅い組織では未だガスが体内に取り込まれているオンガス領域にあるという事実です。 仮に低勾配係数を20%に設定していたとすれば、最初の減圧停止では当然遅い組織もここで停止することになります。したがってその組織はまだ青いエリアにあるというこは未だガスを体内に取り入れている最中であるということを忘れてはなりません。青いエリアで費やす時間が長くなればなるほどより多くのガスがそれらの組織には蓄積されていきます。つまり、より深い深度での減圧停止は、速い組織における減圧症のリスクを低くできるという利点がありますが、遅い組織ではより多いガスが取り込まれてしまうという欠点もあります。いわゆるディープストップの理論について深く立ち入る気は毛頭ありませんが、ダイビングの安全性を極めたいというならそれもありでしょう。さて仮に低勾配係数を10とします。ビュールマンが許可している無限圧限界値の10%を限界値と設定するわけですが、その結果、より遅い組織にガスがいたずらに蓄積されるだけという結果となり、それでも遅い組織において真の意味での減圧ができる時間を与える必要があるとすれば、減圧時間が長くなってしまうという結果になります。そうしなければ今度は浮上完了後に減圧症を発症するなる可能性があるのです。 このグラフでは高い勾配係数について説明するのは少し難しいですが、想像してみましょう。全述した通り、高勾配係数は水面に浮上した時に体内ガス圧がビュールマンの過飽和限界の何%まで許容したいか、ということでした。つまり、人間の過飽和度 50 パーセントを選択した場合、グラフでは体内ガス圧およそ1から1.5気圧のどこかで水面に浮上することになり、浮上完了手前の体内ガス圧の飽和限界値からの乖離が大きく、体内ガス圧を50%にまで下げるためにはより長い時間が必要になることはお分かりかと思います。 たとえば勾配係数を90にした時と比較すると、この場合グラフでは体内ガス圧およそ1から1.9気圧のどこかで水面に浮上することになりますが、飽和限界値からの乖離はさほど大きくはないので、勾配係数係数を超えることなく、比較的短時間の減圧停止で水面に到達することができるようになります。したがって、高い勾配係数は減圧にかかる時間を決定します。 繰り返しますが、低勾配係数を極端に保守的に、つまり低く設定すると遅い組織にガスが蓄積しすぎるという結果を招き、高い勾配係数の数字によっては、浅い水深での減圧停止時間が長くなり過ぎてしまうことになります。 繰り返しますが、もちろんそれでも大丈夫かもしれません。しかしビュールマン研究の90%守って上昇しても、最終的に体調の異変を感じ、浮上後10分後に減圧症の自覚症状を感じ、再圧チャンバーに搬送されるかもしれません。地表に到達した時に体内ガス圧は90%の過飽和だったはずですが、おそらく遅い組織は排出が間に合わなかった可能性があります。

要約するとグラディエント・ファクター(勾配係数)は、2つの値で構成され、最初の値は勾配係数が低く、2 番目は勾配係数が高いものです。 低勾配係数は基本的に、そのダイビングの最大深度下で許容されるビュールマン過飽和限界値に対するパーセンテージであり、実際には最初の減圧停止深さを決定します。 忘れてはならないことは、最大深度が深ければ深いほど、減圧を開始した時点で遅い組織での体内ガス圧はそれなりに高くなっており、一方、高勾配係数は水面に浮上した際に許容されるビュールマン過飽和限界値をパーセンテージで示したものに過ぎないことに留意してください。 したがって、コンピュータ上のGF99モニター機能では、潜水中の瞬間、瞬間において、その時に減圧をコントロールしている組織でのビュールマン過飽和限界値に対してのパーセンテージのみを表示しているため、最も過飽和に達していると思われる組織の過飽和値が、設定した高勾配係数値よりも高くなることはありえません。 高勾配係数を70に設定してしまえば、一度浮上を完了した時に体内ガス圧の最高値は70を超えることはできないように設計されているためです。つまり高勾配係数が70であるということは、単純に水面に到達した時点で、ビュールマンが提唱した過飽和限界の70%の不活性ガスを、少なくとも遅い組織には過飽和の状態で蓄積されたままの状態にあるということを意味します。 もちろんどのグラディエント・ファクターを選択するべきかという疑問は常に残りますが、その質問は無意味です。なぜなら、グラディエント・ファクターを設定する必要性とは、誰もが異なる身体を持っているという一点につきます。滑稽に見えるかもしれませんが、同じプロフィールのダイビングをしていても減圧症になるものがいれば、ならないものもいるという事実を持ってすればそれは明らかです。減圧症になりやすい体質のダイバーであれば大深度下では体内ガス圧をあまり過飽和にしたくはないので、より低い勾配係数を選択する必要があります。またダイビング終了時にも90といった極端に高い勾配係数を選択することは避けるべきでしょう。 あるダイバーは95%でもまだ問題ないと言うかもしれませんが、そうでない人もいます。この数値はあくまでも自己責任で自分で判断する必要があるのです。私が間違っていなければ、シアウォーターのデフォルトの勾配係数は 30/70です。つまり、低勾配係数はビュールマンの30%、そして浮上時のそれは70%。 以前の私の経験ですが、毎日最大水深100mほどの大深度潜水ををしながら、勾配係数をいろいろいじっていました。まずは深い水深での勾配係数、すなわち低勾配係数をいじって試行錯誤していたのですが、20から、30、40と上げていき、ダイビング毎に終了後の感触をチェックし、何らかの結果が得られないものかと考えました。でも仮に少し疲れたと感じたとしても、それが勾配係数のせいなのか、それとも ダイビング3日目だったからかもしれないし、水分補給が足りてなかったからかもしれない。要因はいくらでもあるのです。しかしながら、減圧プロファイルを決定するため、あるいはいわゆる万人に共通の安全性を決定するために色々試行錯誤したのです。いずれにしろ、常に減圧が長すぎるというのは好ましいとは言えません。もちろん議論の余地はありますがとりあえずそういうことにしておきましょう。低勾配係数は低く設定され、低いほど最適とされます。なぜなら、たとえば 30/50の勾配係数を設定したとすると、浅い停止で長い長い減圧停止を行わなければならず、体内の不活性ガスは十分排出されますが、最初の減圧は極端に深くなります。高勾配係数を高くして、例えば70にすると、たとえば 水深100mから21mまで、正確に毎分9mの速度を維持して浮上しなければなりません。これがアルゴリズムの想定だからです。そうしないとアルゴリズムが崩れいつかはどこかで破綻してしまい、それが原因で減圧症になる可能性もあります。 したがって、勾配係数を選択するときは、こういったすべての要因を考慮する必要があり、どれが最適であるかは誰も教えてくれません。 私の場合、私の体は比較的深い水深での減圧停止にはにうまく馴染まないようなので、ダイビングの最大水深のエリアでは比較的高めの超飽和限界を使用しています。もちろんあまり高過ぎないようにはししています。 グラディエント・ファクターを使用すると、常に深い水深からの段階的な減圧停止が必要になることを覚えておいてください。そういったすべての要件を考慮した上で自分は比較的高い低勾配係数を設定し、かつ高勾配係数には通常は70を使用しています。さらに減圧停止がクリアになっても、水が十分に暖かいなら、出来うる限り長く安全停止を行い、体のあらゆる組織から少しでも不活性ガスを排出するよう心がけています。もし皆さんがシアウォーターを持っているなら、組織グラフを見て、自分の体の各組織が現在進行形でどのように過飽和が推移しているかをつぶさに見ることができる絶好の機会です。そして実際に浮上を完了するとGF99が表示されるわけですが、事前に勾配係数を70 に設定してたはずなのに、水面に到達した時点でGF99ではビュールマンの60%程度になっていることがわかります。これはいわゆる安全停止を長く取った結果です。このダイビングで、結果的に60で浮上できましたが、もちろんそれが常に可能であるとは限りません。 水温が低すぎる、故に早く家に帰りたい、あるいは波が高すぎる、など。理想の条件はそうはあり得ません。

以上がグラディエント・ファクタの概要です。

ここで、理解度を確認するため、いくつかの設問を設けてみました。

 

Q. 1.

40/70の勾配係数を使用していたダイバーが、減圧の初期段階で減圧症を発症しました。この人にとってどのような勾配係数がより適しているか考えてみましょう。

 

Q. 2.

次は30/90のダイバーの場合です。浮上後10分後に減圧症を発症しました。この場合はどうでしょうか?

 

Q. 3.

最後は少し難しい問題です。40/70と30/80ではどちらの勾配係数の方がより保守的だと思いますか?

それぞれの回答はよかったらぜひコメントでいただければと思います。

この記事を書いた人

案納昭則

潜水歴四十年、総本数12000本を超える現役のSSI(スクーバ・スクール・インターナショナル)インストラクターでありJPS所属の職業写真家。
2003年にNHK「趣味悠々〜水中散歩を楽しもう(全7回)」講師を担当。上智大学外国語学部フランス語学科中退。
NPO法人沖縄県ダイビング安全対策協議会事務局長を歴任。

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