ヴィアマーレ

水中写真 – フィルム時代の苦労話

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水中撮影:フィルム時代の苦労話

 

年寄りの戯言と思って読み飛ばしてください。

 

フィルム写真って何?

 

今の若い方には、フィルムという存在自体をご存じない方がたまにいるので驚かされることがあります。今でこそデジタル時代でメディアに記録する電子媒体ですが、かつては写真といえば乳剤という感光剤をベースにした「フィルム」に、映像を「感光」させて映像を止め、さらにそのフィルムを「現像」することで映像を固着し、永久保存できるというものでした。デジタル写真しか知らない若い方でもおそらく実家でご両親に探して貰えば子供の頃のネガフィルムがたくさんあるはずです。

 

フィルム写真からデジタル写真への移行

 

フィルムカメラからデジタルカメラが主流になり始めたのは2000年のミレニアムイヤーあたりからではなかったでしょうか?初期には画像が悪かったのでファミリーユース的なカメラがメインで、特にダイバーの間ではオリンパスのTGシリーズが販売されるようになってからでしょうか。

 

ポジフィルム

 

それ以前はいわゆるフィルムカメラしかありませんでした。フィルムには大きく分けてネガフィルムとポジフィルムという2種類があり、いわゆるファミリーユース向けがネガフィルム。フィルム原盤を見ると明暗やカラーチャートが反転しているので初めて見る人は戸惑うかもしれません。が、プリントして、一葉のフォトグラフにするにはネガフィルムの方が圧倒的に安価なのでした。一方、ポジフィルムというのはいわゆるプロユース。4、50代以上の方々なら覚えているかもしれませんが、いわゆるスライドで、学校の授業や結婚式などでスライドの映写なんてのもありました。当時の印刷原稿には基本ポジフィルム入稿でしたので、プロの写真家は基本ポジフィルムで撮っていたものです。

 

 

ポジフィルム
現像済みのポジフィルム。これはスリーブ仕上げと言います。パノラマサイズの特殊なカメラで撮影したものです。
ポジフィルム
スリーブ仕上げのロールから良いものだけをカットして整理していきます。

 

フィルム写真時代の水中撮影事情

 

さて今のデジタル時代の常識でいえば、例えば128MBのSDカードさえ持っていればおそらく1000カット以上の写真を保存できますよね?一方、フィルム時代といえば、ネガだと12カット、24カット、最大で36カットとありましたが、一本のフィルムで最大36枚しか撮れないわけです。ポジに至ってはもちろんプロユースなので基本36カットのロールしかありません。さてネガフィルムはともかく我々プロの写真家が1本36枚撮りのフィルムの仕上がりを見れるまでにどれくらいの値段と、時間がかかるかというと、まずポジフィルム36枚撮り、ワンロール1000円強。現像にプロ価格で1000円強。36カット撮るのに大体2500円ほどかかるのです。しかも撮影した後に現像作業に出すと最低でも4、5日。若い頃は座間味という沖縄のど田舎の離島ですので、送料も考えるとある程度貯まらないと現像にも出せません。撮影してから撮影結果を見るまでに下手すると2ヶ月というのもザラでした。さらにきついのが水中写真での独特な苦労です。水中で36カット撮影して、さらに撮影を続けたいと思ったら一度水から上がって、体の水分を拭って、フィルム交換作業をしなければいけないということ。当時の先生クラスの水中写真家なら2、3台のカメラを水中に沈め、ワンロールの撮影が終了したらアシスタントが船にカメラを届け、船上でこれまた船長がフィルム交換してそのままアシスタントに渡してまた水中へということを繰り返してました。自分も若い頃は何度もこのアシスタント役をやらされたものです。

 

ニコノスの存在感

 

フィルム時代の水中写真器材といえばニコノスでした。ニコノスはそもそもフランスのスクーバダイビングの祖であるジャック・イブ・クストーが作ったカリプソという水中カメラが初代であり、その後ニコンがパテントを取得して、カリプソをニコノスIとしてリリースし、II型からⅣ型と改良を加えて最終型のニコノスⅤを経て、バブル期にニコノスRSという水中一眼レフにまで昇華しました。自分は時代的にニコノスⅤの開発に際しては協力してたりしましたので愛着があります。まぁフィルムカメラなので今ではまず使うことはないでしょうが、今でもウチの防湿庫にはⅡ型からⅤ型までのニコノスが眠ってます。

 

撮影機材いろいろ
マイカメラ機材群です。中心にある3つのカメラがニコノス。ニコノスⅤが2台と、手前左の黒いのがニコノスⅢです。

 

次はフィルムカメラの高価さとさらに高価な水中ハウジングのお話

 

フィルム時代のプロユースのハイエンドのカメラ本体に限ればむしろ今のプロユースレベルのデジタルカメラに比べれば多少は安かったかもしれませんが、それでもオートワインダー(自動巻上機)などの周辺機器を揃えるとそれなりの値段になるものです。ただ昔は各メーカーのハイエンドの一眼レフを買えば10年くらいはモデルチェンジはありませんでした。一方、現在のデジタルカメラではほぼ毎年マイナーチェンジがあり、数年に一度はメジャーチェンジがあってその度に画質が良くなっていくので、いくら新しいハイエンド機種を買っても、すぐに旧機種に落ちてしまい、貧乏写真家にはついていけません。さらに水中写真では防水ケースが必須になります。プロユースの本格的なものになると「ハウジング」とか「ブリンプ」と呼ばれますが、これがフィルム時代もデジタルの時代もプロユースのハイエンド機種だと50万前後になり、これまたレンズを変えるとポートという前面部分を交換することになります。これがまた本体のレンズより高かったりします。さらに機種が変わるとハウジングの構造も変わるのでおいそれと中の本体をコロコロ変えるわけにはいかないのです。

 

ついでですがフィルム会社のその後

 

ちなみに今のデジタルカメラの心臓部である言われる元祖のCCDイメージセンサーを最初に開発したのはフィルム製造会社であった米国のイーストマン・コダック社です。コダックといえば日本の富士フィルムと双璧をなすプロユースのポジフィルムの会社でした。同時期に富士フィルムもCCD技術の開発に乗り出します。コダックのエクタクロームやコダクローム、富士フィルムのプロビアやベルビアなどのポジフィルムにはお世話になったものです。

が、皮肉なことにイーストマン・コダック社は自らが開発したCCD技術によるデジタル化の波に耐えきれずに生業のフィルムの売上の激減により倒産してしまいます。

一方の富士フィルムですが、そもそもフィルムというのは乳剤を使う生物(「せいぶつ」ではなく「なまもの」ね)で、自分らは基本冷蔵庫に保管していたものです。大手のカメラ店に行くと今でもフィルムは冷蔵庫に保管されています。乳剤の研究はそのまま化粧品の研究に通じるものなので、富士フィルムはいち早くフィルムの乳剤研究のノウハウを基に化粧品事業に切り替え、特に女性の間では今ではむしろ化粧品会社としてのイメージが定着してきたようです。さらにフィルムの衰退に怯むことなくデジタルカメラ開発にも積極的に展開してきたのでいまだに健在です。また近年はあえてアナログのフィルム写真を好むアマチュアカメラマンも増えてきているようで、マーケットは狭いながらもフィルム業界では富士フィルムが独占状態となっているのが現状です。面白いですね。

 

今の自分のメインカメラ

 

結局、昔のフィルムカメラのハウジングはもちろん、今のハイエンドのデジタル一眼のハウジングでもかなりの重量があるので、もはや還暦近い自分があちこち持ち歩ける代物でもなく、というわけで今、自分が水中ガイドをしながらメインに使っているのは、結局オリンパスのTG-6とGoPro8。

本格的な写真を撮る需要があるときにはソニーのミラーレス、という布陣です。できればフルサイズのミラーレスが欲しいところですが、このコロナで先立つものが全くないので今しばらくお預けです。ハウジングも入れると70万超、レンズ群とポートまで揃えると100万越えのコースですからね。

 

今の水中写真の世界は昔から考えたら夢の夢の世界なのです!

 

結局、デジタルカメラ全盛の現代は、昔から比べたら、特に水中写真の世界では夢のような世界です。256くらいのSDカードさえあれば1週間ぐらいのロングツアーでもカード交換することなく、しかも撮影枚数の制限もなく水中で好きなだけ撮影が可能です。今では256のSDカードなんて昔の36枚撮りフィルムたった1本とその現像代程度の価格です。撮影した写真をすぐに確認してフィードバックも可能だから、その気になりさえすればどんどん撮影技術は向上します。露出なんかも昔は撮影者のカン頼りでしたが今はほとんどカメラ側が自動的に調整してくれます。あとは自分の好みにカスタマイズするだけ。そんな夢のような時代にダイビングを始めたのですから、どんどんチャレンジして積極的にいい写真を撮りにいってください。ただ自分も含めて、昔は限られた撮影枚数の中でいかにいい写真をフィルムに収めるか、一枚に対する入魂が半端なかったですが、今では漫然とダラダラと撮っているような反省は自分にもあります。一枚に対する思い入れが希薄になっているような気がするのです。

 

ともあれ写真撮影については陸撮でも水中撮影でも何でも聞いてくだされば可能な限りアドバイスします!

 

以上!昨今のデジタル化に対する年寄り写真家の恨み節でした(笑)

この記事を書いた人

案納昭則

潜水歴四十年、総本数12000本を超える現役のSSI(スクーバ・スクール・インターナショナル)インストラクターでありJPS所属の職業写真家。
2003年にNHK「趣味悠々〜水中散歩を楽しもう(全7回)」講師を担当。上智大学外国語学部フランス語学科中退。
NPO法人沖縄県ダイビング安全対策協議会事務局長を歴任。

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