ヴィアマーレ

ダイビングの奥義!呼吸を知る!

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あらゆるダイビングスタイルで呼吸法は最重要スキル

 

呼吸法というとちょっと大袈裟ですが、ダイビングには切ってもきれない「呼吸」のメカニズムをおさらいしてみましょう。最新鋭のおどろきの「呼吸」にまつわる最新の研究結果もコラムで紹介していきます。

 

スクーバやSCRなど呼吸装置を使ったダイビングの場合

水中では潜水器具なしには呼吸できないことはもちろん、正しい呼吸ができてないと下手すると命に関わります。

 

フリーダイビングの場合

息を止めて自分の身一つで潜っていくフリーダイビングでは潜水中は呼吸を止めるわけですが、そのアプネア(息ごらえ)を支えるのは潜水前の準備段階の呼吸が効率的にできたかどうかにかかっていると言っても過言ではなく、最高のパフォーマンスを得るためには欠かせない重要なスキルになります。

 

「呼吸」って何?

 

そんなの当たり前じゃん!って思われるかもしれませんが、まずは呼吸の生理学的側面をおさらいしておきましょう。

意外と自分達の「呼吸」については知らないこと多いと思いますよ。

 

さて「呼吸って何?」と問われた時のみなさん答えはどんな物でしょうか?

医療従事者やエントリーレベルの講習を受けて間もない方ならともかく、一般人の認識なら「息を吸ったり、吐いたりすること」といった程度の認識でしょう。エントリーレベル講習を受けてそのままスキルアップをせずにただ経験を積んでいるだけのダイバーも意外とすっかり昔勉強したことは完璧に忘れていることでしょう。

 

実は「息を吸ったり、吐いたりする」行動は呼吸という人間の代謝におけるほんの断片にすぎません。厳密にいえば「息を吸ったり、吐いたりする」だけでは呼吸にすらなってませんというのが真実です。ちなみにこの行為は専門用語で「外呼吸」と呼ばれる一連の「呼吸」のほんの入口にしかすぎません。

 

外呼吸

 

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まずは「外呼吸」の過程を見ていきます。鼻、または口から吸気された空気は、気道と呼ばれる空気の通り道を通過していきます。単に気道と言いましたが、厳密には口蓋の奥で鼻腔と合流し、声帯を通って気管に入り、その気管はまもなく大きく二つの気管支に分かれて左右の肺腔内に入り、その気管支はさらに木の枝のようにどんどん枝分かれして細くなり細気管支、毛細気管支となり、最終的には毛細気管支の先端にブドウの房のように鈴なりになった「肺胞」に至ります。この「肺胞」こそが外呼吸の核であり、この肺胞を取り巻く毛細血管との間のフィルターのような「壁」を隔てて酸素と二酸化炭素の受け渡しが行われています。

ちなみに一人の人間の肺胞の総表面積はテニスコートに匹敵すると言われています。

 

看護roo!

 

肺胞を取り巻く毛細血管中の酸素濃度は肺胞内の酸素濃度より低い(体内で酸素が消費された結果です)ので、フィルターを通して酸素が血管へ、要するに「体内」に流れ込みます。他方、肺胞を取り巻く毛細血管内の血液には本来空気にはほとんど含まれない体内の廃棄物としての二酸化炭素濃度が高くなるのでその二酸化炭素は濃度が低い肺胞内へと流れ出ます。水は高いところから低いところへ流れ落ち、一度水面が一緒になると流れが止まるという物理学の「普遍の原理」です。

 

死腔

ここで気がついてほしい点が、いわゆる「死腔」の存在です。

先ほど実際のガス交換、いわゆる正しい意味での「外呼吸」が行われるのは気道の先端に鈴なりになっている「肺胞」だとお伝えしました。

それ以外のいわゆる「気道」は単なる空気の通り道であり、実際は呼吸とは全く関係のない空間(スペース)です。ガス交換と言う生理学的な「呼吸」という本来の目的から言うと完全な「デッド・スペース」なので「死腔」です。かつて忍者が「水遁の術」と称して城のお堀を人知れず渡ったと言われてますが、生理学的に言えば極めて短い時間ならともかく現実的には不可能な話です。その根拠こそがこの呼吸死腔の存在。現在市販されているスノーケリング用のスノーケルでもあの径であの長さが安全上のマージンを考慮しても、限界に近く、それ以上長く、あるいは径が大きくなるとそのスノーケルの呼吸死腔だけで肺活量の大部分を占めてしますので、同じ空気がスノーケルを含めた呼吸死腔内を行ったり来たりするだけで、全く新鮮な空気と入れ替わることがなくなり、結果的に酸欠になるのは時間の問題なのです。人類は直立姿勢をとることに成功した唯一の生物であり、そのために他の動物に比べると効率的には圧倒的に不利な条件を他のメリット(言語の獲得など)で相殺したといえ、呼吸の効率性については生理学的には極めて不利と言えます。というわけでダイビングにおいてはスノーケリング呼吸中はもちろんレギュレーター呼吸でもいわゆる「呼吸死腔」が普通の生活よりは増加するのでより効率的な呼吸法が要求されるわけです。

 

内呼吸

さてこれだけでは人体の呼吸を語るには片手落ちです。

呼吸には実はもう一つの側面があります。それが「内呼吸」です。

さてそもそも我々が呼吸(外呼吸)する理由とはなんでしょうか?

 

体細胞での代謝

酸素を取り込んだところで何すんの??って話ですよね?

肺胞で取り込まれた酸素は血管を巡り、血管から細胞から細胞へとバトンパスのように渡っていき、末端までの全ての細胞に行き渡ります。そしてそれぞれの細胞内のミトコンドリアという組織が我々が食物から摂取した様々な栄養素と酸素を燃焼させてエネルギーを生み出す。それが私たちが生きる証であり、あらゆる行動、思考の根源なのです。

これがいわゆる「内呼吸」

従って肺胞での「外呼吸」と細胞での「内呼吸」がセットになって初めて「呼吸」が完成するのです。

 

 

そしてこの全てのループを整理すると、まず私たちは「呼吸」します。取り込まれた空気は長い長い気道を通って「肺胞」に至り、ここでまずはガス交換が行われます。ここで行われるのは血中に不足した酸素を取り込み、不要になった二酸化炭素を排出することです。ここでは万物は高いところから低いところへ流れるという「普遍の原理」に基づいています。

血液は血管を巡り必要な気管に酸素を分配します。その分配については血管から近いところはすぐに届けられますが、血流から遠い骨組織や軟骨組織、脂肪組織では到達も排出も遅くなります。いずれにしろ体細胞では酸素が消費されてその廃棄物として二酸化炭素が生成され、その二酸化炭素は静脈を巡って心臓を経由して肺胞に至り体外に排出されます。

 

コラム:静脈

血管といえば動脈と静脈があることはご存知だと思いますが、動脈は血圧が高いので万が一切れると多量の出血になってしまうためにある程度皮膚から深いところを通っています。他方、静脈は比較的皮膚に近いところを通っていますので、例えば手首に透けて見えるのは全て静脈です。

コラム:ミトコンドリアと硫黄呼吸

最新の研究では、体細胞でエネルギー代謝(生命が生命維持のために生体内で化合物を合成すること)を担うミトコンドリアでは硫黄が欠乏するとそれ自体が萎縮してしまい効果的な酸素の代謝に支障をきたすことが知られています。硫黄というと温泉大国日本人としては大涌谷などで経験する硫黄臭を思い出す人も多いでしょう。なんだか危険な物質というイメージですが、実は人間の体内には主にミトコンドリア内に合計1kgもの硫黄が存在しているそうです。人類はもちろん地球上の全ての生物のエネルギーの生成を担うミトコンドリアは40億年前のまだ酸素のなかった太古の地球の時代から基本的な構造は変わっていないようです。ということはひょっとしたらいつかこの地球上から酸素がなくなる未来を示唆しているのかも知れません。ちなみに現在の地球上でも深海の熱水鉱床などの生態系では今現在でも硫黄呼吸が行われています。

 

二酸化炭素の功罪

二酸化炭素って悪者と思ってませんか?

近年では二酸化炭素の温室効果とか、これまでの記述でも不用物とか老廃物とかボロボロに言われている二酸化炭素ですが、実は人体になくてはならない存在なのです。

 

さて、息を止めると苦しくなるのはなぜでしょう?

 

ここではある程度の予備知識がある方ばかりだと思いますが、街中で同じ質問をすれば90%くらいの確率で「酸素が少なくなるから」という答えに至るでしょう。

実はヒトが息を止めて「苦しい」と感じるのは酸素が少なくなったからではなく、息を止めたことで酸素のみが消費され体内に過剰な二酸化炭素が蓄積されすぎるからです。ヒトが「苦しい」と感じるのに酸素は全く関係なく、体内の二酸化炭素レベルがトリガーとなっています。

ちなみにハイパーベンチレーションと言う呼吸法があります。息を止める前に数回深くて早い呼吸を繰り返すと息を止めていられる時間が圧倒的に長くなります。自分がダイビングを始めた頃には、ハイパーベンチレーションは素潜りには必要不可欠なテクニックでした。深呼吸を何回もやりすぎると頭がクラクラしてきませんか?それです。

ハイパーベンチレーションを行うと、息を止める前の体内の二酸化炭素レベルを強制的に下げることができ、結果として脳に二酸化炭素レベルが上昇しすぎたことを警告するトリガーが発動する時間が遅れます。と言うことは「苦しい」と感じるまでの時間が長くなるわけです。一方、酸素濃度は最初から変わらないので、ハイパーベンチレーションをしないで息を止めるのと同じペースで体内で消費されます。ハイパーベンチレーションをやりすぎて息こらえスタート時の二酸化炭素レベルを下げすぎてしまうと、脳が二酸化炭素レベルの上昇を感知する前に、酸素レベルが意識を保てる十分なレベルを下回ってしまい、「苦しい」と感じる前に失神してしまうでしょう。

ましてやスキンダイビング、いわゆる素潜りの場合は浮上中に圧力から解放された酸素レベルは劇的に減少するため浮上中に失神してしまう危険性が高くなります。これがシャーローウォーター・ブラックアウトです。自分が学生の頃はベテランの先輩ダイバーや素潜り漁師などが何人もこのシャーローウォーター・ブラックアウトで命を落としかけたり、亡くなった方もおられました。現在ではいかなる場合もダイビング中のハイパーベンチレーションは厳禁とされています。

 

 

呼吸のコントロール

 

人体の生命維持に必要不可欠な機能の中で自分の意志でコントロール可能なのは呼吸だけ

例えば心拍数や体温調節など、生命を正常に保つための機能は基本的に脳の中の脳幹という部分が支配しており、自分の意志でコントロールすることはまず不可能です。

唯一呼吸だけがある程度の範囲で自分で呼吸方法をコントロールできるものなのです。

例えは悪いかもですが、仮に自殺しようとして、自らの意志で死ぬまで息を止めることは基本的にはできません。呼吸も基本的には生命維持の基礎を司る脳幹がコントロールしているからです。

 

脳には呼吸に関連する部分が3つある

 

脳幹 代謝性呼吸 生きるための呼吸

 

脊髄から上に上がってきて最初にあるのが脳幹です。ここでは生命維持に必要不可欠な全ての機能をコントロールしています。心拍、体温調節、反射などです。呼吸のコントロールも基本は脳幹でコントロールされています。ここまではあらゆる動物に共通する機能です。

 

大脳皮質 随意呼吸 意識的な呼吸

 

大脳皮質というのは大脳の表面を覆う神経細胞の薄い層です。ここでは自分の意志で、呼吸のパターンを制御したり、意図的に息を止めるといったことも大脳皮質が担当しています。

 

扁桃体 情動呼吸 ・・・感情をコントロール

 

扁桃体。扁桃ってアーモンドのこと。目の奥、大脳の中心から少し下に位置するアーモンド型の神経細胞の集まりで、人間の感情を支配しています。よく耳にするドーパミンやアドレナリンは扁桃体が放出しています。また記憶にも主要な役割を果たしています。

緊張してドキドキしたりすると息が浅く早くなってきますよね?それがこの扁桃体の働きによるものです。

 

 

ダイビングでの正しい呼吸

 

スクーバダイビングの呼吸

普通の呼吸をしましょう(爆笑)

おーぃ!さんざん能書き垂れた挙句それかい!と怒らないでくださいね。

もう十分にダイビングに慣れたダイバーさんはそれで十分なんです。

でもビギナーダイバーやこれからダイビングを始めよう、体験ダイビングにチャレンジしようと考えている方は次のことに注意しましょう。

最初のうちは慣れない経験なので心臓バクバク、呼吸も浅く速くなりがちです。また陸上に比べると冷たい水中に入るのでそれだけでもストレスです。とにかくまずは体の力を抜いてリラックスすることです。

呼吸はゆっくり、空気を吸おう、吸おうとは思わないで、むしろ吐こう、吐こうと意識してください。肺の中の空気を全部入れ替える気持ちで、まずは息を吐ききることさえできれば、空気は自然と入ってきます。数を数えてみるのもいいかもしれません。1、2、3でゆっくり吸って、1、2、3、4、5でゆっくり吐く。吸う時間よりも吐く時間の方を長くするのがコツです。

前を進むインストラクターさんの泡を見て呼吸のペースを真似するのもいいかもしれません。泡が出ているということは息を吐いている、泡が出ない間は空気を吸っているということです。ただし、無理はしないでくださいね。最初のうちは当然体のバランスも取りずらいし、フィンキックにも慣れていないので運動量も多くなっているはずです。当然呼吸は速くなりがちなので、無理にペースを合わせようとするとどこかに無理が出てきます。そんな時は何かに捕まったりして息を整えましょう。呼吸のリズムは人それぞれですので自分自身の呼吸のリズムを見つけてください。

もう一つ忘れてはいけないことは、水中では決して息を止めないことです。といいながら、「耳抜きは息を止めて・・・」とか「スムースな潜降には息を吐いたまましばらく我慢して・・」なんて矛盾だらけのことを言ってたりはしますが、怖いのは息を止めたまま浮上してしまうこと。肺の過膨張傷害障害を引き起こします。

また自分も経験あるのですが(もう40年近く前の話です)ビギナーのうちはとかく先輩のように長く潜りたいと、スキップ呼吸を意図的にしてしまうことがあります。スキップ呼吸とは一呼吸ごとに少しインターバルをつける呼吸です。これはほとんど意味がないばかりでなく体内に過剰な二酸化炭素が蓄積されるのでいわゆるハイパーカプニア(高炭酸症あるいは炭酸過剰血症)を引き起こし最初は頭痛に始まりそのまま潜り続けていると意識を可能性もあります。スキップ呼吸は絶対にNGです。また最初のうちは息が上がって速く浅い呼吸に陥ってしまった場合でもハイパーカプニアになることがありますので注意が必要です。

 

フリーダイビングの呼吸

フリーダイビングの初級コースではブリージング・セッションという呼吸法の練習が必ず行われます。そこで詳しくお伝えするのですが、参考までにさわりをご紹介します。

フリーダイビングで息を止める前のブリーズアップには二つの呼吸方法を組み合わせます。

まずはリラクゼーション呼吸。十分にリラックスした状態でスノーケルをつけて水面に浮かんだ状態で行います。身体中の全ての筋肉を完全に脱力するように心がけてください。呼吸はスクーバと同様吸うより吐く方を長めに、無理のない自然な換気量で行います。例えば4秒吸って、7〜8秒かけて吐くといったペースです。リラクゼーション呼吸で準備が整ったらファイナルブレスを行います。ファイナルブレスは腹筋と胸筋を両方使ってできる限り大きく吸って、大きく吐く。決して速くなりすぎてはいけません。最後にもう一度、腹筋と胸筋を両方使って限界まで空気を吸ってから息を止めて、潜降、もしくはアプネア(息ごらえ)に移ります。この時決してハイパーベンチレーションになってはいけません。

呼吸のリズムは人それぞれですのでスクーバ呼吸以上に自分自身の呼吸のリズムを見つけることが肝心になってきます。

さて浮上後、あるいはアプネア終了後はすぐにリカバリー(回復)呼吸を行います。

水面に到達したらすぐに息を勢いよく吐き出し、続いて大きく吸って、すぐ吐き出すのではなく一拍置いてから、あるいは吸った息を飲み込むような気持ちで吐く、を数回繰り返します。ちょうど英語の「Hope」をゆっくり発音する感じです。

浮上直後のダイバーはチアノーゼで唇が紫色になりますが、この回復呼吸でみるみるうちに唇に赤味が戻るのが手に取るようにわかります。

ちなみにフリーダイビングでは浮上後すぐに回復呼吸に移れるように、潜降直前に必ず口からスノーケルを外します。

簡単にフリーダイビングの呼吸法を解説しましたが、きちんとしたトレーニングを受けずに「ちょっとやってみよう」は絶対にやめてくださいね。

 

 

この記事を書いた人

案納昭則

潜水歴四十年、総本数12000本を超える現役のSSI(スクーバ・スクール・インターナショナル)インストラクターでありJPS所属の職業写真家。
2003年にNHK「趣味悠々〜水中散歩を楽しもう(全7回)」講師を担当。上智大学外国語学部フランス語学科中退。
NPO法人沖縄県ダイビング安全対策協議会事務局長を歴任。

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