ヴィアマーレ

世界一わかりやすい減圧理論の解説書

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減圧症を理解しよう!

 

ダイビングにまつわる生理学で大事なポイントはいくつもありますが、何といってもコアとなるのはやはり減圧症でしょう。今回はプロフェッショナルを目指す方はもちろん、エントリーレベルのダイバーにもぜひ理解しておいてほしいポイントをしっかり理解できるように解説していこうと思います。

 

 

ダイビングにおいてのファンとリスクは表裏一体??

 

そうなのです。ダイビングの歴史そのものが、いかに減圧症のリスクを最低限に抑えながらダイビングそのものを楽しむかという命題を追求してきた歴史と言っても過言ではありません。

要するにより深く潜りたい、とかもっと長い時間潜っていたいというファンの部分を追求する欲求と、減圧症のリスクは完全に相反するものなのです。より深く潜りたい、例えばざっくり10mを超えたダイビングでは深く潜れば潜るほど減圧症のリスクは劇的に上昇しますし、そんなに深くない水深20m程度のダイビングでも潜水時間が長くなればなるほどやはり減圧症のリスクは高くなります。まして、潜水後24時間を経過せずに再びダイビングを行ういわゆる「反復潜水」ではどんどんリスクは蓄積していくのです。

 

さてまずは減圧症の発症のメカニズムからおさらいしていきましょう。

 

ヘンリーの法則

 

スクーバダイバーやオープンウォーターなどエントリーレベルのダイビングの講習を受けた方なら必ず耳にしているはずです。最近は特にSSIではe-Learningなので「目」にしているはずですね。

ヘンリーの法則はイギリスのウィリアム・ヘンリーさんという方が提唱した気体に関する法則です。

曰く 「気体の溶解度は圧力に比例する」

こんな堅い定義では「?」ですよね。

噛み砕いて言うと、ある「気体」がある「液体」に接触したときに、その「気体」の圧力が高ければ高いほど多くの量の「気体」がその「液体」に溶け込む「ことができる」というもの。そしてその量は倍の圧力下では倍に、3倍になれば3倍になります。

あ、もっと訳ワカメになったかな (^^;;

 

例えば「ビール、」あ、未成年者もおられるかもしれないので「コーラ」にしておきますか(笑)

缶では中が見えないので瓶を想像してください。手元にあるならぜひやってみたらいいかもしれません。ただし、その後に起こりうる惨事の責任には負えませんのでご容赦ください。(汗)

いずれにしろ栓を開けない限りは、人の力でどんなにシェイクしようが、コーラ瓶でキャッチボールなどしようが、中はただの透明な液体で、何の変化もありません。

でも開栓すると瞬時に発泡します。シェイクしてたら間違いなく泡が吹きこぼれます。ご存知の通りビールでもコーラでも泡の正体は二酸化炭素(炭酸ガス)です。炭酸飲料の内圧は普通は2気圧から4気圧、ペットボトルの耐圧力は6気圧と言われており、強炭酸と銘打っている炭酸飲料ならばほぼペットボトルの耐圧ギリギリまで圧力を加えているようなので、真夏の密閉した車の中にでも放置すると大変なことになりそうです。

まぁ清涼飲料水の瓶なり、缶なり、ペットボトルなり、最低でも2気圧、少なくとも大気圧の倍の圧力で炭酸ガスを強制的に溶け込ませた状態にあります。先のヘンリーの法則によると大気圧下1気圧に比べて倍の量の炭酸ガスが「圧力によって」閉じ込められているわけです。

さてその瓶の蓋を開栓します。その瞬間に瓶の中も大気圧に戻りますので、圧力で強制的に閉じ込められていたガスは圧力から解放されて「プシュ」という音ともにに発泡します。

さてこの現象をダイビング中の私たちの体に置き換えてみましょう。

私たちが水深10mに潜降するとそこでの環境圧力は2気圧(大気圧の1気圧と10m分の水圧1気圧を加えたもの)です。大気圧の2倍の圧力ですから私たちの体は限りなく2倍に近い量までのガスを体内に「取り込むことができます。」

しかし空気の組成はご存知の通り窒素79%、酸素21%。そのうち酸素は体内で積極的に消費されるものなので、問題となってくるのは不活性ガスの窒素です。

ちなみに大気圧下において私たちの体内には、もちろん体格などによって個人差はありますが、トータルでざっくり1ℓ前後の窒素が体内のあらゆる組織に溶け込んだ状態にあると言われています。

潜降して水圧が加わり、周囲の圧力「環境圧力」が高くなってくると我々が呼吸する空気中の窒素は、その圧力に比例してより多くの量の窒素が体内組織に溶け込むことが「できるようになります」

「できるようになります」とわざと括弧で閉じました。あくまでもある水深に一定時間留まった時に体内が取り込むことができる最大量であり、その環境圧力に晒された瞬間にそのMAX量になるわけではありません。実際は呼吸を通して少しずつ取り込まれていき結果的にその水深における環境圧力に応じて限りなく最大値に至るまで、「少しずつ」体内に窒素が溶け込んでいきます。その結果、これ以上溶け込みきれなくなった状態を「飽和」と言います。ちなみに水深10mでは環境圧2気圧ですので、飽和に達すると水面上(1気圧)の倍の量の窒素が体内に溶け込むことができますが、その飽和状態に達するまでの時間は24時間です。この辺は実はもっとややこしいのですが、少なくとも今のところは24時間と理解しておいてください。

 

コラム:不活性ガスって何?

人体生理学的に不活性ガスというと、基本的に空気の組成中の大部分を占める窒素ガスのことをいいます。人体に特に積極的に利用されないし、大気圧下においては化学的には人体に何の悪さも起こさないガスを言います。ちなみに大気中には他にネオンやアルゴンなどの不活性ガスも含まれていますが、ごく微量なのでここでは無視します。

 

ハーフタイム

 

では不活性ガス(窒素ガス)はどのように体内に溶け込んでいくのでしょう。

まずは基本的な法則をご紹介します。

「ハーフタイム」という言葉を聞いたことがありますか?

不活性ガスの体内への吸収には特徴的な傾向があります。まずは「ある一定」の時間である体内組織への飽和が50%完了します。さらに残りの50%が先ほどと同じ時間で半分になります。さらにその繰り返し。半分の繰り返しなので、理論的に言えば100%の飽和には永久に達することがありません。この半分になるために必要な「ある一定」の時間が「ハーフタイム」です。

もちろん浮上の際にも同様にハーフタイムに基づいた不活性ガスの「排出」が行われ、体内からの過剰な不活性ガスは「ハーフタイム」の繰り返しに則って排出されます。

余談ですが、考古学において古代遺物の炭素年代測定に使用されている理論もハーフタイムと同様の「半減期」という考え方に基づいたもののです。

 

体内組織モデル

 

だんだん難しくなってきますが、ついてきてくださいね!

さて窒素の体内への吸収ですが、面倒くさいのは、先のハーフタイムが体組織全体で一律ではないところです。人体にはさまざまな組織があり、不活性ガスである窒素の吸収には体組織によって大きな「差」があるのです。

皆さんはまずは口か鼻で空気を吸いますよね?その空気は気道を通り、肺の深部にある肺胞に至ります。肺胞は口から至る気道の「幹」が枝分かれした先端の小枝についたブドウの房のようなもので、一般の成人の肺胞の表面積(仮に肺胞を全て開いて敷き詰めたら)テニスコート一面分ぐらいになると言われています。その肺胞では毛細血管と接した壁を通して、圧力の高いところから低いところに流れる普遍の法則により、吸った空気から体内より濃度の高い酸素を取り込み、過去の呼吸で体内に取り込んだ酸素を消費した代謝物として体内に蓄積した二酸化炭素を体外に排出します。

そのルートは肺胞から肺動脈を至って心臓に至り、全身に送られます。その血流は血管、その血管はどんどん細くなって体の隅々にまで行き渡り、もはや血流もない末端では細胞から細胞へバトントスのように酸素が受け渡されて、身体中のあらゆる細胞を潤します。そしてその廃棄物として出た二酸化炭素が、今度は逆のルートを辿って、体外に排出されていきます。壮大な生命のメカニズムです。

ここで気づいてほしいのは、組織によって酸素がすぐに届けられるところもあれば、なかなか届かないところもある。という点です。逆に酸素を細胞で消費した結果としての老廃物である二酸化炭素の排出は末端ではバトントスのように超スローですがそれが血流に乗ってしまえば比較的短時間で排出されていきます。

物流システムで考えてみましょう。まずは、ポストに手紙を投函します。手紙は空気中の酸素で、ポストは口です。その手紙(酸素)はまずはしばらくポスト内に取りおかれます。これは人体では気管支(呼吸死腔)にあたります。さて配送員さんが回収して(肺呼吸)初めて手紙(酸素)が動き始め、まずはその地区の基幹郵便局(心臓)に集荷されます。そこからはまずは飛行機(基幹動脈)に乗って運ばれ、そこからは地方便、トラック、バイクと受け継がれて、最終的には徒歩(毛細血管)に至り、そこからは本人が直接受け取ることもあるだろうし、誰かが間に入って手渡しかもしれません。という経緯で目的地に配送されるのです。

もう「こいつはいらねーよ」の廃棄品をリサイクルするのも逆のパターンです。

ダイビングではこの過程でのガスの吸収と排出が組織によってどの程度早いか、遅いかというのが問題になってきます。

これをあくまでも数学的にモデル化したのが体内組織モデルです。

ちょっと考えて頂ければご理解いただけると思いますが、肺でのガス交換と直接接している血管と血流そのものは酸素の吸収も老廃物の二酸化炭素の排出も「早い」組織になります。その血流がどんどん細くなればなるほど酸素の吸収も老廃物の二酸化炭素の排出も「遅く」なり、もはや血流もない末端組織では単なる細胞間のバトントスとなりますからどちらも極めて遅くなります。

それらの組織での不活性ガスの吸排気のスピードの過程を数学的にモデル化したのが「体内組織モデル」なのです。

 

ちょっと前のダイブコンピュータでは体内組織モデルの各コンパートメント(「区画」と呼ばれる数学的にモデル化した体内組織モデルのそれぞれの部分)でどのように不活性ガスが吸収され、排出されていくかが潜水中にも視覚的に視認できるものがありました。TUSAのDC Sapience IIというモデルのダイブコンピュータで、12の体組織モデルを採用しています。

 

この画面の一番上に表示されているのが各体内組織コンパートメントへの吸収、排出が現状どのようになっているかを視覚的に確認するためのバーグラフです。一番左が「最も早い組織」一番右が「最も遅い組織」になります。

この表示から推測される情報は、おそらく過去24時間ダイビングしてない状態から酸素濃度21%の通常の空気を使用して、現在、深度が23.4m、潜水時間が潜降から18分。NDL(残りの無限圧潜水時間)は残り10分。さらにまだバーグラフの上の表示が全て+なのであらゆる体内組織で現在進行形で窒素を蓄積中との表示が出ているのがお分かりと思います。

それぞれの組織コンパートメントでの不活性ガスの残量を示すのが上のバーグラフになります。早い組織になればなるほど、各組織での無限圧限界を示す横のラインに近づいているのがおわかりいただけると思います。

一番左の「最も早い組織」のコンパートメントが「次に早い組織」よりバーグラフが低くなってますが、おそらく一度最大深度に達した後に、一度水深20m前後まで移動し、再潜降したものと思われます。ここでは最大深度は出てきてませんが、いずれかのボタンを押せば最大潜水震度が表示されます。このダイビングではおそらく最大深度は30m近くになっていると思われます。

以前、当店ではエントリーレベルの講習では必ずこのダイコンを装着していただき、体内の不活性ガスの吸排出を視覚的に体感していただいていたものですが、電池交換式で、元々4台ほどあったものですが、もはや2台は電池交換しても動かなくなってしまい、今では残存2台のみ、これも電池交換していないまま放置しているので多分電池交換してももう動かない可能性の方が高いです。もちろんもはや生産中止になっています。講習にはうってつけのダイコンだっただけに残念です。

さてこのモデルがほとんど使えなくなった後は、SUUNTOのDシリーズあたりまではインターフェイスでログデータをパソコンに取り込みさえすればコンパートメントごとの不活性ガスの吸排気を視覚的に見ることができましたが、それもMACのOSのアップデートでもうすでに使えなくなり、今ではどのメーカーもほとんどスマホアプリに切り替わり、さらにどのメーカーも不活性ガスの吸収、排出を視覚的に見れるものがなくなったのは極めて残念です。ひょっとしたら当店では使っていない他のメーカーならあるかもしれませんので、ご存じの方がおられましたらぜひお知らせください。

古いOSのままの昔のMacBook Airが復活できればひょっとしたら過去のデータを掘り起こすことができるかもしれません。ちなみにスクリーン裏のリンゴのロゴが光るタイプの大昔のMacBook Airなのですが、久しぶりに出してみたものの当然バッテリーは完全放電していて、しかも充電器が見つからない!現行のUSB-Cになる前の前のガラパゴスコネクターなのでした。今アダプターを取り寄せてますので、無事充電できて起動できれば、実際のダイビングデータを使って1日での複数ダイブでどのように体内組織モデルへの吸排気が行われるのか?その不活性ガスがどのように体内に影響するか、さらに数日にわたる反復潜水を行った時にはどんな現象が起こるか、実際に映像で解説できると思います。

 

まぁその気になれば、ある程度自分の経験をもとにしてモデル図を作ることはできるのですが、できれば生のデータの方が良いに決まってるし、そもそもそんなデータを作るのはかなりの労力がいるのでした(⌒-⌒; )

 

というわけで実際のモデルの実例は昔のMacBookAirを復活できればひょっとしたらご紹介できるかもしれませんので乞うご期待!

 

実際のダイビングでの体内組織モデルでの不活性ガス吸排出の実際

 

単日内での反復潜水

 

さてこの辺は本当なら実際のダイブコンピュータの画像をご覧いただければ一目瞭然なのですが、今のところは文章でご理解いただきます。

 

 

まずは一日3ダイブを考えます。

1日数回潜る場合は基本的に最大震度を最初に深く、2、3本目に浅く浅くするのが定石ですが、実際のダイビングではそう理想的には行きません。まぁここでは仮に理想的に想定しましょう。シリンダーは通常の21%ナイトロックス、ごく普通の「空気」です。

1本目は最大深度30mで計画するとします。

ダイブテーブル、または今、自分の手元にある過去1週間ほど使ってない当社のレンタル用ダイブコンピュータBism Solaris のプランモードでは無限圧限界は15分です。仮に無限圧ギリギリの14分で浮上を始めたとします。この時には体内組織レベルの一番早い組織が飽和ギリギリに達した、ということです。さてゆっくり浮上を始めます。すると最も早い組織ではもう積極的に不活性ガスの排出を始めます。次にトリガー(ダイブコンピューター上で要減圧のアラームになるきっかけ)となるのは2番目に早い組織に変わり、その組織が飽和に達すると、ダイブコンピュータはもっと浅場に浮上することを要求します。浮上を始めると、最も早い組織はさらに早い速度で排出が進みます。トリガーとなった2番目に早い組織も緩やかに排出を始めます。が、注目してほしいのは、このあたりでは「遅い組織」ではすでに浮上中にもかかわらず依然不活性ガスの蓄積は継続し続けているという点です。この傾向は普通の一本目のダイビングではほとんどダイビング終了まで続きます。要は浮上を開始しても遅い組織では潜水中はほとんど吸収のみに終始するのです。遅い組織が排出を開始するのはやっと水面に戻ってからです。でもその排出の速度は極めて緩やかです。重要なのは、ここで5m3分の安全停止をきちんとやっておけば、遅い組織での不活性ガスの排出は、安全停止なしに浮上するのに比べれば急速に加速されます。水深5mという深度では酸素濃度が水面の1.5倍となり、より効率良い不活性ガスの排出を促すからです。

さてここから仮に1時間のインターバルをとって2本目のダイビングを始めました。たった1時間のインターバルですが、「早い組織」から「遅い組織」に向かって半分ほどの組織コンパートメントではバーグラフはほぼゼロに戻ってると思われます。いわゆる「残留窒素」が全くなくなっている状態なのですが、遅い組織になればなるほど、バーグラフ上で「残留窒素」はほとんど1本目の終了時のままの状態から2本目のダイビングが始まります。

さて2本目のダイビングで仮に最大深度25mで計画します。

ここからはダイブテーブルに沿うと潜れる時間は極端に短くなるのと実際のダイビングをモニターできるわけではないのでダイブコンピューターに依存することとします。ダイブコンピューターのプランモードで仮に無限圧時間10分だったとします。1本目と同様無限圧ギリギリの9分あたりで浮上を始め、無限圧がゼロにならないように気をつけながら安全停止を行なって浮上しました。

先ほどと同様に「早い組織」の組織コンパートメントでは一旦は飽和ギリギリまで上昇しますが、浮上に従って急速に排出され、バーグラフはゼロに戻ります。が、1本目では終了時ほぼゼロだった真ん中へんの組織コンパートメントでは微妙に残留窒素が残っていることを示すようになります。「遅い」組織ではたった1時間のインターバルではそんなに排出が追いつきませんから1本目終了後より少しバーグラフが上昇するでしょう。不活性ガスの排出が追いつかず、「遅い」組織での不活性ガスの蓄積が多くなり、減圧症のリスクが高くなりつつあることを示しているわけです。

仮にここで2時間のランチを挟んだインターバルをとって3本目に仮に浅めの15mMAXのダイビングをしたとしてもその傾向は全く変わりません。「遅い」組織での不活性ガスの蓄積は溜まっていく一方です。

さて先ほどちょっとややこしいと述べた体内の不活性ガスの吸収と排出の時間ですが、とりあえず24時間と覚えておいたくださいと言いました。これはちょっと前の常識として、最終のダイビング終了後24時間を経過すれば残留窒素はほとんど完全に排出されるという考え方に則ったもので、例えばモルジブなどでは法律で潜水終了後24時間以内の飛行機搭乗は禁止とされていますし、ハワイなどでは潜水終了後24時間以内のマウナケア登山などの高所移動は法律ではないものの、ツアーへの参加はやはり禁止されています。潜水終了後は体内に過剰な残留窒素が滞留した状態にあるので、通常より気圧の高い状況に晒されると減圧症を発症するリスクがあるからです。

10年ほど前までは24時間が常識でしたが、最近の研究では36時間とか48時間と規定しているモデルも出てきているので24時間という規定も怪しくなってきてはいます。まぁ、とりあえず今のところは「正しい認識の基に」ダイブコンピューターにお任せしていればいいとは思います。「正しい認識の基に」とあえて括った理由については後述します。

ここまでは1日のダイビングのみで終了の話でした。

 

複数日にわたる反復潜水

 

ここからはいわゆる「反復潜水」先ほどの24時間ルールを経過しないうちにダイビングを始める場合の話です。

不活性ガス(残留窒素)は基本24時間を経過しないと完全に体外に排出されないと言いました。でも私たちはダイビングツアーなどにいくと、仮に午前1本、午後1本の1日2ダイブとしても次の日の1本目まで24時間以内に再びダイビングを始めることになります。そうするとしつこいようですが身体区画の「遅い」コンパートメントではまだ不活性ガスが少なからず「残った」状態からダイビングを開始することになるのです。

反復潜水を繰り返していると、知らず知らずのうちに「遅い」組織での不活性ガスの蓄積が排出に追いつかなくなり、この辺はもちろん体質や健康状態などにもよるのですが、ダイブコンピュータの演算ではフォローしきれない状況に陥って、ダイビングコンピュータの指示を守っていても減圧症を発症するリスクが出てくるわけです。反復潜水の際には3日潜ったら一度24時間完全にダイビングしない日を作るようにしましょうというのはそのためです。

とはいえせっかく目の前が海というところにきてダイビングしないで指を加えてみてるのも切ないですよね?

そんな時は普通の「空気」ではなく、酸素濃度が空気よりも濃い「エンリッチドエア・ナイトロックス」を使うことです。エンリッチを使えば減圧症のリスクは劇的に軽減できますので、空気を使ったダイビングより反復潜水での減圧症のリスクも劇的に軽減することができます。

 

実際のダイビングのデータで窒素の体内への吸排気を視覚的に見てみる

 

さてお待たせしました。かなり苦労しましたが、結局完全マニュアルでTUSAのDC-Sapience IIの画面を撮影してみました。

かなり前、2018年8月31日から4日続きの反復潜水の記録です。

わかりやすいように敢えてどっちかって言うと無茶しているダイビングのデータを選んでみました。

まずは1日目の1本目

 

 

過去48時間ダイビングは行っていないので、体内の残留窒素量は通常の大気圧のそれに完全に戻った状態です。

百聞は一見にしかず。実際にどのように体内における各コンパートメントへの吸排気が行われるかみてみましょう。

画面上のバーグラフで一番左が「最も早い組織、」一番右が「最も遅い組織」です。

 

 

いかがですか?早い組織では深く潜るに従って急速に窒素を吸収していきますが、浮上を始めるとまたすぐに排出されているのがお分かりいただけるかと思います。逆に遅い組織では吸収はゆっくりですが、浮上を始めてもほぼダイビング終了まで吸収し続けてるのが実際に見てとれます。

 

1本目終了直後の体内の窒素はこうなっています。

 

 

 

さて2本目を開始します。

49分のインターバルで、開始時の体内各コンパートメントの窒素量が下の写真。

前回ダイビング終了時のバーグラフと比べてみてください。

「一番早い組織」ではもうほとんど残っていない一方、遅い方の組織は右に行けば行くほど、ほとんど変化は見られません。

 

 

 

 

2本目終了後の体内組織での窒素の状況が上のバーグラフ。

遅い組織でもだいぶ窒素が溜まってきました。

 

さて二日目の1本目。

 

 

前日2ダイブのみだったので残留窒素はかなり排出されましたが、それでも最も遅いコンパートメントでは微妙にまだ窒素が残った状態からのダイビングです。

 

 

 

 

2日目1本目終了直後の組織コンパートメントでの残留窒素量がこちら。

 

さて2本目を開始します。インターバルは46分。DECOの文字が目立ちますね。このダイビングは減圧ダイビングとなりました。動画上ではバーグラフの上の点線をいずれかの組織コンパートメントを示すバーが接した時点で減圧ダイビングとなります。が、接した程度では普通に浮上している段階で自然と減圧義務は消滅する場合が多いです。

 

 

2日目の2本目開始時の残留窒素状況

 

 

ご覧の通り19分から34分あたりにかけて一番左から5番目のバーが上の点線。いわゆるM値と呼ばれる無限圧の限界値に接しています。一時は左から3番目、4番目のバーも接しています。この時は減圧時間が増えないように少しずつコントロールしながら浅場に移動したので点線を超えないまま横ばいでしばらく推移しました。ここで仮に同じ減圧指示が出た水深をそのまま維持していたり、逆に深場へ移動したりすると途端にバーは点線を突き抜け、より長い時間の減圧義務が生じることになります。

 

結果的に終了時での各組織コンパートメントでの残留窒素状況はこのようになっていました。減圧義務のトリガーとなった左から4番目、5番目の窒素量が目立ちます。

 

さて3日目1本目のダイビングです。

 

 

開始時の残留窒素状況はこの通り。前日も2ダイブのみだったので2日目の1本目の開始時とほぼ同じ状況ですが、これが仮に1日目、2日目も3ダイブだったり4ダイブだったりするとこうはいきません。「遅い組織」バーグラフの右の方のバーが毎日着実に蓄積して排出が追いつかなくなることがわかるはずです。次回できれば1日3ダイブを4日続けた時にどうなるかご覧いただければと思います。

 

 

 

 

減圧症の症状とは

 

さてこれまで減圧症のメカニズムをつらつらと語ってきましたが、まぁ、皆さんにはできれば経験してほしくはない話ですが、万が一でも減圧症を発症してしまったかなー?と思った時の判断基準をお伝えします。

 

ざっくり減圧症には Ⅰ型とⅡ型があります

 

Ⅰ型減圧症

まぁ不幸にして減圧症を発症したとしてもほとんどの場合は、このタイプ。

いわゆる「ベンズ」です。

どーでもいい聞き耳学です。どこかのブログでも書いたかもしれませんが「ベンズ」という言葉は英国のヴィクトリア王朝時代、産業革命期にロンドンのテームズ川の下をつなぐトンネル工事に従事していた労働者が、仕事が終わって出てくると四肢関節が痛くてまともに歩けず、痛みを堪えるために前屈みに歩いてた姿を当時女性貴族のスタイルとして流行していた「グリシャム・ベンド」というスタイルに揶揄して「ベンズ」と呼ばれるようになったといわれています。

これまで述べてきた減圧症のリスクの結果起こりうるのはほとんどこのタイプの減圧症。

しつこいくらい言った通り、遅い組織で発症する減圧症の症状です。

 

異常な倦怠感

最も典型的な初期症状としては、異常な倦怠感。自分も一度経験したことがありますが、もう本当に一切体を動かす気力がなくなるほどの極度の異常な倦怠感です。

 

大理石班

皮膚ベンズとも言われます。減圧症として他覚症状(他人がみてわかる症状)としては一番マイルドな症状です。いわゆる「遅い組織」である皮下組織において不活性ガスが気泡化した結果、鬱血を起こし、その結果、大理石状の斑紋が皮膚上に現れるものです。

 

関節の痛み

やはり「遅い組織」である関節の軟骨組織で不活性ガスが気泡化することにより神経を圧迫して激しい痛みとなります。

 

Ⅱ型減圧症

中枢神経型の減圧症であり、致命症になりかねない重症の減圧症です。

通常のファンダイビングではよほどメチャクチャなルール無用のダイビングをしない限りあり得ないのでご心配なく。

大袈裟な例では例えば水深40mに30分潜って無限圧で浮上すればほぼ間違いなくこの中枢神経型減圧症になります!

少なくともダイブコンピューターのあらゆる警告を無視して水面に浮上すると中枢神経型減圧症になるリスクを負うと思った方がいいです。

いらぬ情報なのでここでは詳しい症状は述べませんが、下手すると命を落とす恐れがある!とだけ申し添えておきます。

 

 

減圧症になったら

 

あんまり考えたくない事象ですが・・・

 

もし、ちょっとヤバイ潜り方したなぁーと思った時に、減圧症の初期症状を感じたら!

まずは当店で常備している100%酸素を吸入してください。

症状が良くならないようなら(仮に改善しても)酸素吸入を続けたまま救急搬送します。

あとは医療機関の指示にお任せ。

ですね。

 

 

はっきり言いますが

沖縄のダイビングショップで100%酸素を10ℓ以上とデマンドバルブの耐酸素仕様のレギュレーター、そしてAEDを「現場に」常備しているダイビングショップって何件もないと思います。

あなたの使っているダイビングサービス!一度チェックしてみてください。

あなたの命の値段はその程度?万一の時それでいいんですか?

 

ダイビングコンピューターの使用における注意点

 

ダイビングコンピューターは安全マージンが狭いことを認識すべき

 

「正しい認識の基に」と少し前に前振りしておきました。

とっても便利なダイブコンピューターなのですが、注意してほしいのは、マルチレベルダイビング(水深が目まぐるしく変わるダイビング)に準拠して律儀に演算してくれるため、結果的に、その安全マージンがギリギリになっているという点です。

ダイビングコンピューターを購入してそのままの状態で使っていると恐らくそのコンピューターは安全マージンギリギリ、つまりリスクは「最大のまま」でダイビングし続けていることのなります。

実を言うとほとんどのダイビングコンピューターではその安全基準を自分でコントロールすることができるのです。

自分に減圧症のリスクが高い要素があると思ったらそれなりに設定を「厳しく」変えればいいだけなのです。

 

減圧症のリスクが高くなる要因

  • 性別 女性は体脂肪率が男性に比べて高いので減圧症のリスクは高くなります
  • 加齢 代謝機能が低下している恐れがあるので減圧症のリスクが高くなります
  • 肥満 脂肪はより多い不活性ガスを取り込み排出速度も遅いので減圧症のリスクを高めます
  • 障がい 障がいを起こした部位は血流が通常より阻害されているのでその部位での減圧症のリスクを高めます
  • 飲酒 飲酒は脱水を誘因するので血流を阻害し減圧症のリスクを高めます。
  • 脱水 血流を阻害し、減圧症のリスクを高めます。ダイビング中の水分補給は絶対不可欠です。
  • 低水温 不活性ガスの溶解度は海水温4度前後が最大であり、海水温は低ければ低いほど減圧症のリスクは高くなります。

 

まずはきちんとマニュアルを読もう!

ダイブコンピューターを買ったらまずはちゃんとマニュアルを読みましょう!

特に安全に関するところはきちんと読んで、自分なりにカスタマイズすることです。

わかなかったら遠慮なく聞いてください。

メーカーが違うと時間がかかるかもしれませんがなんとかします!

ダイバーさんの安全が第一ですから!

 

この記事を書いた人

案納昭則

潜水歴四十年、総本数12000本を超える現役のSSI(スクーバ・スクール・インターナショナル)インストラクターでありJPS所属の職業写真家。
2003年にNHK「趣味悠々〜水中散歩を楽しもう(全7回)」講師を担当。上智大学外国語学部フランス語学科中退。
NPO法人沖縄県ダイビング安全対策協議会事務局長を歴任。

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